清兵衛新田

清兵衛新田：相模原の開墾と近代化の足跡

神奈川県相模原市。現在では大規模な市街地が広がるこの地は、江戸時代後期、人々のたゆまぬ努力によって開墾された歴史を持つ。その中心となるのが、清兵衛新田である。相模原台地は平坦な地形ながら地下水位が低く、耕地化が難航していた。そのため、周辺の村々の入会地として利用されていた状況であった。

そんな中、1843年（天保14年）、転機が訪れる。小山村の豪農、原清兵衛が幕府の開墾政策と韮山代官江川英龍の勧奨を受け、私財を投じて開墾に乗り出したのだ。当初は小山村や近隣の農家など49戸が入植。比丘口、矢懸、横山、原組、大河原の5つの組に分かれ、開墾作業は開始された。これらの組名は、現在も地名や踏切名などにその名残をとどめている。

しかし、開墾は容易ではなかった。地下水位が低く、痩せた土地では収穫量は少なく、入植者たちは厳しい生活を強いられた。ソバ、ヒエ、アワ、麦類といった作物が栽培されたものの、生活は困窮を極めたという記録が残っている。それでも彼らは諦めず、開墾を続けた。

1856年（安政3年）の検地では、開発面積205町歩余、石高420石余と認められ、清兵衛新田として幕府直轄領となった。しかし、年貢納入のためには収穫量を増やす必要があり、金肥に頼らざるを得ない状況は入植者の負担をさらに増大させた。開墾から30年後には、当初の49戸のうち24戸しか残っていなかったという事実が、その困難さを物語っている。

明治維新後、清兵衛新田は明治政府の直轄領となり、神奈川府（後の神奈川県）に所属。1889年（明治22年）の町村制施行により、近隣の村々と合併して高座郡相原村の一部となった。その後、昭和初期には相模原への陸軍施設進出に伴う都市計画が進み、清兵衛新田は都市計画区域に編入、区画整理事業が行われた。この事業で従来の集落の構造は巧みに取り入れられたが、太平洋戦争の敗戦により軍都計画は頓挫。区画整理完了後も、しばらくは農地として利用され続けた。

明治中期以降は、横浜港の後背地として養蚕業が発展し、清兵衛新田でも多くの耕地が桑畑として利用されるようになった。生糸が主要輸出品だった時代、養蚕は重要な産業であり、清兵衛新田の経済を支えた。しかし、1929年（昭和4年）の世界恐慌による生糸・繭価格の暴落は大きな打撃となり、1960年代まで養蚕は盛んに行われたものの、経営は不安定さを極めた。

1960年代以降は、東京や横浜のベッドタウン化が相模原にも波及し、清兵衛新田は急速に市街地化が進んだ。農地は姿を消し、かつての農村景観は完全に失われてしまった。地名も、1974年（昭和49年）に「大字清兵衛新田」は消滅。しかし、新たに「清新」という町名が付けられ、清兵衛新田の歴史は、地名として現在に受け継がれている。清兵衛新田は、人々の努力と時代の流れによって形作られた土地であり、その歴史は相模原の歴史の一部として刻み込まれている。

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