清教徒 (オペラ)

概要

『清教徒』（せいきょうと、イタリア語: I Puritani）は、ヴィンチェンツォ・ベッリーニが作曲した全3幕のオペラで、メロドランマ・セリオと銘打たれています。1835年1月25日にパリのイタリア座で初演されました。この作品は、清教徒革命の時代を舞台に、恋人たちの愛と葛藤を描いたもので、歌手にとっては非常に難易度の高い楽曲が特徴です。『ノルマ』や『夢遊病の女』と並び、ベッリーニの代表作として知られています。

作曲の背景

1833年、オペラ『テンダのベアトリーチェ』の不評に失望したベッリーニは、パリへ移住し、『清教徒』の作曲に取り組みました。この作品は、パリのイタリア座からの依頼で制作されたもので、ベッリーニにとって再起をかける重要な作品でした。当時、ベッリーニはフランス語を話せず、イタリア語もシチリア訛りが強かったにもかかわらず、パリでの成功を強く望んでいました。彼は、ロッシーニの支援を得てイタリア座と契約し、収入面でもイタリアでの活動時よりも好条件を得ました。

パリには当時、多くの歌劇場がしのぎを削っていましたが、ベッリーニは、フランス語のオペラを上演するパリ・オペラ座や、台詞を用いたオペラ＝コミック座ではなく、イタリア座での発表を選びました。

初演

1835年1月25日の初演では、エルヴィーラ役をジュリア・グリジ、アルトゥーロ役をルビーニ、リッカルド役をタンブリーニ、ジョルジョ役をラブラーシュが務めました。この4人は「清教徒クァルテット」と呼ばれ、初演は大成功を収めました。この成功によって、ベッリーニはレジオンドヌール勲章を授与され、国際的な名声を確立しましたが、初演からわずか8ヶ月後に33歳という若さで病死し、『清教徒』が彼の遺作となりました。

初演後

本作は、すぐにヨーロッパ各地で上演され、イタリアでは宗教上の検閲を避けるために題名が変更されるなどの対応がなされました。英国初演はパリ初演と同じキャストによって、1835年5月21日にロンドンのキングズ・シアターで行われました。アメリカ初演は1843年にニューオリンズで、日本では1989年に藤原歌劇団によって初演されました。

リブレット

カルロ・ペーポリがイタリア語で執筆したリブレットは、ジャック＝アルセーヌ・フランソワ・アンスローとジョゼフ＝グザヴィエ・ボニファスの戯曲『議会党派と王党派』が原作となっています。タイトルはウォルター・スコットの小説に由来しますが、物語に直接的な関連はありません。ベッリーニは長年コンビを組んでいたフェリーチェ・ロマーニではなく、ペーポリを起用しました。

当初は2幕構成でしたが、ロッシーニの助言により3幕構成に変更されました。

物語の舞台となる清教徒とは、16世紀後半にイギリスでカトリックを排除した新興中産階級のことで、クロムウェルの率いる議会派と王党派が対立していた時代が描かれています。このオペラは、ロマン主義の最初の波の終焉を示す作品とされています。

音楽的特徴

『清教徒』は、ベッリーニの作品の中でも最も洗練されたオペラとされ、和声やオーケストレーションにその特徴が見られます。パリの聴衆を意識して書かれたこともあり、主題の回想が多用されています。ベッリーニは、ゆったりとした時間の流れを作り出すことを試みており、拍をまたいだ遅い三連符を用いた導入部はその典型例です。エルヴィーラの役は、ロマン主義的な狂気を表現しており、病的な状態というよりも、か弱い女性の内面的な変化を描いています。

ベッリーニは、古典的な構成を取り入れつつも、場面が区切れることなく展開される構成を用いています。彼の美しい旋律は、ドラマの感情をより良く表現するために、和声とオーケストレーションを純化させています。音楽評論家のD・J・グラウトは、ベッリーニのスタイルを「純粋で悲歌的な旋律」と評し、ショパンとの類似性を指摘しています。また、ベッリーニの作品は、歌手の技量に大きく依存している点も特徴です。

楽曲

最も有名なのは、第2幕のエルヴィーラの「狂乱の場」であり、30分にも及ぶアリアです。第3幕のフィナーレでは、アルトゥーロのパートに高いファが使用されています。リッカルドやジョルジョにも、それぞれ美しいアリアやロマンツァが与えられており、音楽的にも完成度の高い作品です。

楽器編成

管楽器：フルート2、ピッコロ、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2
金管楽器：ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ
打楽器：ティンパニ、大太鼓、シンバル 、トライアングル
弦五部、ハープ
バンダ（舞台裏）：ホルン4、大太鼓、鐘、オルガン（管楽器での代用可）、ハープ

演奏時間は約2時間30分です。

登場人物とあらすじ

物語は、17世紀の清教徒革命のさなかにあるイングランドが舞台です。

第1幕

議会派のリッカルドは、エルヴィーラとの結婚を期待していましたが、エルヴィーラが王党派のアルトゥーロと愛し合っていることを知ります。エルヴィーラは、叔父のジョルジョの計らいで、アルトゥーロとの結婚を許されますが、結婚式当日、アルトゥーロは王妃エンリケッタを逃がすために、エルヴィーラのヴェールを王妃に被せて逃亡します。エルヴィーラは裏切られたと思い、狂乱してしまいます。

第2幕

狂乱状態のエルヴィーラを、ジョルジョとリッカルドが見守ります。リッカルドは、アルトゥーロが死刑判決を受けたと告げ、エルヴィーラは狂乱の場で苦しみを訴えます。ジョルジョはリッカルドに、エルヴィーラを救えるのは君だけだと説得します。

第3幕

アルトゥーロは、エルヴィーラに会うために戻ってきますが、エルヴィーラは正気を失っています。アルトゥーロが歌うと、エルヴィーラは正気を取り戻しますが、アルトゥーロは逮捕され死刑を宣告されます。しかし、直後に使者が「ステュアート家が滅び共和国になった」と告げ、アルトゥーロは赦免されます。エルヴィーラとアルトゥーロは結ばれ、物語は幕を閉じます。

主な全曲録音・録画

（省略）

脚注

（省略）

参考文献

（省略）

外部リンク

（省略）

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