平和問題談話会

平和問題談話会：戦後日本の平和を希求した知識人たちの軌跡

平和問題談話会は、第二次世界大戦後の日本において、平和と中立を訴えた市民団体です。その発足は、ユネスコが発表した「戦争を引き起こす緊張の原因に関する声明」に触発された学者たちが、平和に関する共同声明を発表しようとしたことに遡ります。

結成の背景と初期の活動

1948年9月、GHQから岩波書店に配布されたユネスコの声明を読んだ吉野源三郎は、清水幾太郎らに相談し、日本の学者による共同声明の必要性を訴えました。この呼びかけに応じた約50名の学者が集まり、『戦争と平和に関する日本の科学者の声明』を発表。これが平和問題談話会の前身である「平和問題討議会」の発足となります。1950年1月には『世界』誌上で「講和問題についての声明」を発表し、全面講和、中立不可侵、国連加盟、軍事基地反対、経済的自立を主張しました。

会の中心メンバーは、安倍能成、大内兵衛、仁科芳雄といった著名な知識人でした。特に安倍は「オールド・リベラル」として知られ、大正デモクラシー世代の代表的な人物でした。また、大内兵衛と清水幾太郎はマルクス主義者であり、会の実質的な仕切り役は清水が務めました。清水の主導的な立場は、丸山真男から「清水親分」「絶対君主」と評されたほどでした。

イデオロギー対立と批判

平和問題談話会の声明は、ユネスコの声明が「人の心の中に平和のとりでを築く」という理念に基づいていたのに対し、より現実的かつ政治的な主張を含んでいました。しかし、この中立的な立場は、左派からは「現実性に乏しい運動」と批判され、右派からは「ソ連のための平和運動」と非難されました。また、日本共産党からは「戦争と平和に中立があるか」と批判されるなど、左右両派から「学者先生の平和談義」と揶揄されることもありました。

会内部でも、政治化か脱政治化かを巡って路線対立がありました。丸山真男は思想運動を主張しましたが、清水幾太郎は政治運動を主張しました。関西部会は当初から政治化していたものの、東京部会はオールドリベラリストが多く、思想運動的で政治化には消極的でした。

解散とその後

平和問題談話会は、1958年6月に解散し、憲法問題研究会に引き継がれました。

主要メンバー

以下に、平和問題談話会とその前身である「平和問題討議会」に参加した主要メンバーを列挙します。

東京地方文科部会: 安倍能成、天野貞祐、清水幾太郎、武田清子、淡野安太郎、鶴見和子、中野好夫、南博、宮城音弥、宮原誠一、和辻哲郎
東京地方法政部会: 磯田進、鵜飼信成、川島武宜、高木八尺、田中耕太郎、丸山真男、蠟山政道
東京地方経済部会: 有沢広巳、大内兵衛、高島善哉、都留重人、矢内原忠雄、笠信太郎、蝋山芳郎、脇村義太郎
東京地方自然科学部会: 稲沼瑞穂、丘英通、富山小太郎、仁科芳雄、渡辺慧
近畿地方文科部会: 久野収、桑原武夫、重松俊明、新村猛、田中美知太郎、野田又夫
近畿地方法政部会: 磯村哲、岡本清一、末川博、田畑茂二郎、田畑忍、恒藤恭、沼田稲次郎、前芝確三、森義宣
近畿地方経済部会: 青山秀夫、島恭彦、新庄博、豊崎稔、名和統一、福井孝治
その他: 津田左右吉、鈴木大拙、羽仁五郎
「平和問題談話会」となってからの参加メンバー: 奈良本辰也、松田道雄、吉村正一郎

「講和問題についての平和問題談話会声明」

平和問題談話会が発表した「講和問題についての平和問題談話会声明」では、以下の4つが宣言されました。

1. 全面講和以外にない。
2. 日本の経済的自立は単独講和によっては達成されない。
3. 講和後の保障については、中立不可侵を希い、併せて国際連合への加入を欲する。
4. 理由の如何によらず、如何なる国に対しても軍事基地を与えることは、絶対に反対する。

まとめ

平和問題談話会は、戦後の混乱期において、平和と中立を希求した知識人たちの集団でした。その活動は、左右両派からの批判や内部の対立によって、必ずしも実を結んだとは言えませんが、戦後日本の平和運動における重要な一里塚であったことは間違いありません。

参考文献

竹内, 洋『メディアと知識人 - 清水幾太郎の覇権と忘却』中央公論新社、2012年。ISBN 978-4120044052。

関連項目

憲法問題研究会
世界 (雑誌)

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