湖沼型

湖沼型：湖沼の多様な姿を分類する

湖沼は、その物理的、化学的、生物学的特性によって様々なタイプに分類されます。この分類を湖沼型（lake type）または湖沼標式と呼びます。特に生物生産と環境要因に着目した分類が一般的です。

歴史と分類体系

湖沼型の概念は、20世紀初頭、アウグスト・ティーネマンら陸水学者によって提唱されました。1920年代には、生物生産と環境要因に基づく現在の分類体系が確立し、日本では吉村信吉がティーネマンの考えをさらに発展させました。

湖沼型は、大きく分けて調和型湖沼と非調和型湖沼に分類されます。調和型湖沼では、生物に必要な物質がバランスよく存在し、生産者と消費者の間で調和が保たれています。一方、非調和型湖沼では、有害物質や過酷な条件が生物の生育を阻害し、生態系のバランスが崩れています。

日本の環境省では、自然環境保全基礎調査において、富栄養湖、中栄養湖、貧栄養湖、腐植栄養湖、酸栄養湖、鉄栄養湖の6つのタイプに分類しています。

調和型湖沼：生産と消費のバランス

調和型湖沼は、栄養塩類の量によってさらに細かく分類されます。

富栄養湖 (Eutrophic):

リンや窒素などの栄養塩類が豊富で、生物生産が非常に活発です。植物プランクトンが大量発生し、水質汚濁を引き起こす可能性があります。サロマ湖、諏訪湖、中海などがその例です。OECDの基準では、リン濃度、クロロフィルa濃度、透明度などが具体的な数値で定義されています。

過栄養湖 (Hypereutrophic):

富栄養湖よりもさらに栄養塩類濃度が高く、深刻な水質汚濁を引き起こしています。手賀沼、印旛沼、霞ヶ浦などがその例です。OECDの基準では、富栄養湖よりも高い濃度と低い透明度が特徴です。

中栄養湖 (Mesotrophic):

栄養塩類濃度は中程度で、生物生産もほどほどです。琵琶湖、浜名湖、厚岸湖などが該当します。OECDの基準では、リン濃度、クロロフィルa濃度、透明度などが富栄養湖と貧栄養湖の中間の数値で定義されています。

貧栄養湖 (Oligotrophic):

栄養塩類が少なく、生物生産は低いです。水は非常に澄んでいて透明度が高いのが特徴です。十和田湖、野尻湖、西湖などがその例です。OECDの基準では、リン濃度、クロロフィルa濃度、透明度などが低く設定されています。

極貧栄養湖 (Extreme oligotrophic):

貧栄養湖よりもさらに栄養塩類濃度が低く、生物の種類や数は非常に少ないです。摩周湖、倶多楽湖、本栖湖などがその例です。OECDの基準では、貧栄養湖よりもさらに低い濃度と高い透明度が特徴です。

非調和型湖沼：特殊な環境

非調和型湖沼は、生物にとって有害な物質や条件が過剰に存在し、生物の生育が阻害されています。

腐植栄養湖:

腐植物質が大量に溶け込み、水は黄褐色から褐色をしています。ミズゴケ類の群落や独特の植物プランクトンが特徴です。姉沼、パンケ沼、白駒の池などがその例です。

酸栄養湖:

pHが5.0以下の酸性の湖水です。火山地帯や硫黄泉の近くに見られます。生物の種類は少ないですが、特定の種が大量に生息することがあります。潟沼（世界最強の酸性度）、猪苗代湖、田沢湖、屈斜路湖などがその例です。

鉄栄養湖:

酸栄養湖のうち、鉄分を多く含む湖です。深泥沼（五色沼の一つ）などがその例です。

アルカリ栄養湖:

カルシウムイオンやナトリウムイオンを多く含み、pHが9.0以上のアルカリ性の湖水です。熱帯乾燥地帯の塩湖に多く見られ、藍藻類などの大量発生が見られます。日本には該当する湖沼はありません。

まとめ

湖沼型は、湖沼の多様な姿を理解する上で重要な分類体系です。様々な要因が複雑に絡み合って湖沼の特性を決定していることを理解することが重要です。

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