源氏物語巻名目録

源氏物語巻名目録：成立から変遷、そして研究史料としての意義

『源氏物語』巻名目録は、『源氏物語』全巻の巻名を、物語の構成順（巻序）に従って一覧にした文書です。独立した書物として存在することもあれば、写本の冒頭や末尾、注釈書、梗概書、系図といった関連文献に付録として含まれることもあります。単に巻名を羅列したものから、巻名の由来や異名、さらには各巻のあらすじを付記した詳細なものまで、その内容は多様性に富んでいます。

巻名目録の多様な形態

巻名目録は、巻頭に番号を振るものと振らないものがあり、基本的な巻名一覧から、巻名の由来や異名、各巻の簡単な梗概などを加えたものまで、その内容は多岐にわたります。 特に興味深いのは、巻名の並び順について注釈を加えたものや、複数の異名や異称を併記したものです。 これらの目録は、単に巻名のリストというだけでなく、当時の読者がどのように『源氏物語』を理解し、享受していたのかを示す貴重な資料となっています。

例えば、宇治十帖について、独立した巻数として扱うものや、「これなきも有り」といった付記を加えているものなどがあります。 また、現在では一般的ではない巻名（例えば「桜人」など）を記しているものもあり、それらの存在は、物語の成立過程や受容史を考える上で重要な手がかりとなります。

巻名目録の成立と初期の例

巻名目録がいつ頃から存在したのかは、正確には分かっていません。しかし、更級日記の記述から、11世紀初頭にはすでに『源氏物語』の巻名一覧が存在した可能性が示唆されています。更級日記作者である菅原孝標女が『源氏物語』を読んだ際、「譜」と呼ばれる何らかの資料を用いたという記述があり、この「譜」を巻名目録だと解釈する説があります。

研究史料としての重要性

特に、現行の巻序とは異なる巻序を示す古い時代の巻名目録は、研究上非常に重要な資料です。これらを通して、当時の『源氏物語』の構成や受容のされ方を知る手がかりを得ることができ、物語の成立過程や歴史的変遷を解明する上で不可欠な情報源となります。

代表的な巻名目録の例

いくつかの具体的な例を通して、巻名目録の多様性と研究上の重要性をみていきましょう。

故実書に含まれる巻名目録

鎌倉時代から室町時代にかけて作成された故実書の中には、多くの場合、何らかの基準に従って事柄を列挙しただけの記述しか含まれていません。これらの故実書の中に含まれる源氏物語の巻名目録は、当時の社会における『源氏物語』の巻序やその理解の仕方を示す貴重な資料です。

白造紙の巻名目録

正治年間（1199～1201年）頃に成立したと推定される『簾中抄』の異本「白造紙」に含まれる巻名目録は、現存する中で最も古いもののひとつです。関東大震災で焼失したものの、写真が残っており、その内容から、当時の巻序の特徴を詳細に知ることができます。この目録は、いくつかの巻の順番が現在と異なっていたり、巻数を異なって数えていたりするなど、興味深い特徴を持っています。宇治十帖を独立した一連の作品として扱っていたり、現在では失われたと考えられている巻名も記されている点が注目されます。

拾芥抄の巻名目録

『拾芥抄』（前田尊経閣文庫本）に収められた巻名目録は、いくつかの巻の並び順や異名について、現行のものと異なる記述をしています。例えば、「末摘花」と「紅葉賀」を並べていたり、「桜人」を別の巻として扱っている点などが挙げられます。

源氏物語古系図の巻名目録

二条為氏本源氏物語系図の末尾にある巻名目録は、全55帖という異例の帖数を示している点が特徴です。「宿木」の代わりに「貌鳥」と「かほとりやとりき」をそれぞれ独立した巻として扱っているため、55帖となっていると考えられています。

源氏物語巻名歌の巻名目録

『源氏六十三首之歌』は、歌集自体の歌の数は62首ですが、63帖の『源氏物語』を前提とした巻序が用いられています。この目録では、いくつかの巻の順番が現在と異なっているほか、現在では一般的に『源氏物語』の補作とされている「山路の露」を巻名に含めている点が注目されます。

まとめ

『源氏物語』巻名目録は、単なる巻名一覧ではなく、当時の『源氏物語』の理解や受容の仕方、そして物語自体の成立過程や歴史的変遷を解明するための重要な研究資料です。様々な形式や内容を持つこれらの目録を比較検討することで、『源氏物語』の奥深い世界をより深く理解することができるでしょう。

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