澎湖島要塞

澎湖島要塞は、日本統治下の台湾、澎湖諸島の防衛のために大日本帝国陸軍が築いた要塞です。澎湖諸島は、台湾本島における基隆、高雄と並ぶ防衛上の要地とされ、日本海軍の馬公要港部が置かれていました。そのため、この地には要塞が築かれ、澎湖諸島の防衛を担いました。

概要

1900年4月、大山堡塁の建設が始まり、1909年3月には第一期の要塞工事が完了しました。1903年6月には澎湖島要塞司令部が設置され、澎湖諸島の防衛体制が整えられました。

1921年8月、南方作戦に備えて要塞の増強工事が開始されましたが、1922年2月、ワシントン軍縮会議による太平洋防備制限条約締結により、砲台工事は一時中断となりました。しかし、1934年12月、日本が防備制限条約から脱退したことを受け、外按社砲台の増強工事が再開されました。

1941年9月、臨時編成令と準戦備下令が発令され、澎湖島重砲兵連隊などが編成されました。同年11月には本戦備が発令され、太平洋戦争中は周辺海域の防備に当たりました。1944年の台湾沖航空戦では、高射部隊が応戦しましたが、大きな損害を受けました。翌年1月には、アメリカ海軍の第38任務部隊の攻撃により、在泊艦船にも大きな損害が出ました。

1945年1月、要塞司令部と要塞重砲兵連隊が復帰し、その後は新編された独立混成第75旅団が澎湖諸島の守備を担当することになりました。旅団長が要塞司令官の任務を兼務しました。

年譜

1899年（明治32年）6月：築城部澎湖島支部開設
1900年（明治33年）
4月：大山堡塁着工
5月：鶏舞鳥山砲台着工
7月：西嶼東砲台付属砲台着工
8月：深澳堡塁着工
1901年（明治34年）
3月：西嶼東砲台着工
12月：拱北第1砲台・拱北第2砲台着工
1902年（明治35年）
1月：拱北第3砲台着工
5月：天南砲台着工
6月：大山堡塁竣工
7月：拱北山堡塁・鶏舞鳥山砲台着工
1903年（明治36年）
2月：拱北第3砲台竣工、内按社砲台着工
3月：西嶼東砲台竣工
4月：西嶼西砲台着工
6月：澎湖島要塞司令部を馬公城の新築庁舎に設置。6月30日より事務を開始
10月：深澳堡塁竣工
1904年（明治37年）
2月：日露戦争開戦、戦備動員下令
7月：拱北第1砲台・拱北第2砲台竣工
8月：拱北山堡塁竣工
9月：天南砲台・内按社砲台竣工
10月：西嶼東砲台付属砲台・西嶼西砲台竣工
1905年（明治38年）1月：天南臨時砲台構築
1909年（明治42年）3月：要塞建設工事終了
1920年（大正9年）8月：陸軍築城部澎湖島支部再開設
1921年（大正10年）
8月：外按社砲台着工
9月：猪母水砲台着工
1922年（大正11年）2月：猪母水砲台・外按社砲台工事中止
1934年（昭和9年）12月：外按社砲台増強工事着工
1940年（昭和15年）8月：年度陸軍動員計画令指示、増加兵器交付命令
1941年（昭和16年）
9月：臨時編成令、準戦備下令
11月：本戦備下令
1945年（昭和20年）1月：要塞司令部および要塞重砲兵連隊を復帰

主要な施設

澎湖島要塞には、以下のような主要な施設がありました。

大山堡塁
鶏舞鳥山砲台：要塞整理により、6門の火砲のうち2門を天南演習砲台に移設し、残りは廃止。
天南砲台
天南演習砲台
天南臨時砲台：要塞整理により火砲を撤去し、予備兵器とする。
西嶼東砲台付属砲台
西嶼東砲台：要塞整理により廃止。
西嶼西砲台：要塞整理により、6門の火砲のうち2門を天南演習砲台に移設し、残りは廃止。
深澳堡塁
猪母水砲台
拱北第1砲台
拱北第2砲台
拱北第3砲台：要塞整理により廃止。
拱北山堡塁
内按社砲台
外按社砲台

歴代司令官

澎湖島要塞の歴代司令官は以下の通りです。

中田時懋少将：1903年5月1日 - 1906年3月12日
多田保房少将：1906年3月12日 - 1907年11月13日
本庄道三少将：1907年11月13日 - 1908年12月21日
太田正徳少将：1908年12月21日 - 1909年1月14日
足立愛蔵少将：1909年1月14日 -
千秋直之少将：1912年8月3日 - 1914年8月8日
篠田金少将：1914年8月8日 - 1916年8月18日
平瀬太平少将：1916年8月18日 - 1918年7月24日
伊森重夫少将：1918年7月24日 -
中島栄吉少将：1919年7月25日 -
山田軍太郎少将：1921年3月11日 -
島内国彦少将：1922年8月15日 - 1924年12月15日
宇山熊太郎少将：1924年12月15日 -
安井義之助少将：1926年3月2日 -
波藤雅信少将：1927年7月26日 -
荒城卓爾少将：1928年3月8日 -
作田徳次少将：1928年8月10日 -
金子因之少将：1931年8月1日 -
鈴木元長少将：1932年5月23日 -
松村修己少将：1932年12月7日 -
高屋庸彦少将：1934年8月1日 -
佐竹保治郎少将：1935年3月15日 -
兼松成器少将：1936年3月7日 -
桑名照弐少将：1937年3月1日 -
青木敬一少将：1937年11月24日 -
大妻茂澄少将：1938年5月15日 -
小松二郎少将：1939年3月9日 -
風早清少将：1940年8月1日 -
鵜飼源吉大佐：1942年12月1日 - ※澎湖島重砲兵連隊長兼務

澎湖島要塞重砲兵連隊

澎湖島要塞重砲兵連隊は、澎湖島要塞の主戦力として1941年9月10日に編成されました。馬公で編成され、通称号は台湾第4502部隊でした。1942年12月1日からは、鵜飼源吉大佐が連隊長と要塞司令官を兼務しました。1943年5月には、北千島の防備強化のため1個中隊が抽出されました。

1945年1月25日、連合国軍の上陸が警戒される中で、要塞重砲兵連隊は復帰し、野戦的性格を持つ重砲兵第12連隊として独立混成第75旅団に編入されました。独立混成第75旅団の主力は同年5月に台湾本島へ転進しましたが、重砲兵第12連隊は澎湖島に残り、同様に残留した2個歩兵大隊や旅団工兵隊とともに溌剌部隊を編成しました。7月には海軍の馬公方面特別根拠地隊の作戦指揮下に入り、防衛工事を進める中で終戦を迎えました。終戦時の兵力は人員687名、主要装備は二十八糎砲12門、克式十五糎加農砲6門、四五式十五糎加農砲6門、10cm加農砲6門、斯加式九糎速射加農砲4門、野砲13門でした。

独立混成第75旅団

独立混成第75旅団は、1945年1月4日の軍令陸甲第3号により臨時動員され、1月25日に編成が完了しました。隷下部隊は、独立歩兵第560-564大隊、澎湖島要塞重砲兵連隊を改編した重砲兵第12連隊、旅団工兵隊でした。初代旅団長には田坂八十八少将が着任し、1945年4月以降は終戦まで奥信夫少将が務めました。

当初の任務は、澎湖島要塞に代わって澎湖諸島の守備をすることでした。台湾本島で新設された独立歩兵大隊や旅団工兵隊は、1月末から2月にかけて澎湖諸島に進出しました。しかし、同年5月には台湾本島の防備強化のため、旅団主力は第一号海上機動演習の秘匿作戦名で本島へ転進しました。本島への転進の際、空襲により隷下の独歩563大隊長を含む戦死者が出ました。主力は新竹周辺の防備にあたりながら終戦を迎えました。

脚注

この文章は、提供された資料に基づいて作成されました。

参考文献

浄法寺朝美『日本築城史 : 近代の沿岸築城と要塞』原書房、1971年12月1日。
歴史群像シリーズ『日本の要塞 - 忘れられた帝国の城塞』学習研究社、2003年。
外山操・森松俊夫編著『帝国陸軍編制総覧』芙蓉書房出版、1987年。
篠崎達男「日本陸軍「沿岸要塞」の戦い」『丸別冊忘れえぬ戦場』太平洋戦争証言シリーズ18号、潮書房、1991年。
田藤博「砲兵連隊の戦歴」『日本陸軍機械化部隊総覧』別冊歴史読本16巻6号、新人物往来社、1991年。
『台湾防衛計画（澎湖島要塞火砲配置図）』アジア歴史資料センター（JACAR）
「作命甲関係」『第十方面軍関係戦史資料』 JACAR

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