澤和樹

澤和樹氏は、1955年1月5日に生まれた日本の著名なヴァイオリニストです。旧名は沢 和彦。演奏家としての輝かしいキャリアに加え、教育者としても多大な貢献をし、特に東京芸術大学の学長を歴任したことで知られています。

若き日の研鑽と飛躍

和歌山市で育った澤氏は、幼い頃からヴァイオリンの才能を示しました。印野揚造、東儀祐二、吉永清子、鷲見三郎、兎束龍夫といった多くの師から指導を受け、その基礎を築きました。特に中学3年生だった1969年には、第23回全日本学生音楽コンクール全国大会の中学生部門で第1位に輝き、早くからその才能を開花させました。その後、和歌山県立桐蔭高等学校で学びました。

東京芸術大学での学びと国際舞台へ

1973年、東京芸術大学音楽学部に入学し、ヴァイオリン奏者の海野義雄氏に師事しました。在学中からその実力は高く評価され、1974年には第43回日本音楽コンクールで第3位に入賞。1975年には東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のコンサートマスターに就任するなど、プロの演奏家としての道を歩み始めます。1977年には東京文化会館で初めてのリサイタルを開催。同年、大学院に進学するとともに、ロン＝ティボー国際コンクールで第4位、ヴィエニアフスキ国際ヴァイオリン・コンクールで第6位と、立て続けに国際的なコンクールで上位入賞を果たし、世界にその名を知らしめました。さらに、1978年にはボルドー音楽祭で金メダルを獲得。1979年に大学院を修了する際には、優れた才能に贈られる安宅賞を受賞しました。

ロンドン留学とその後の活動

大学院修了後、NHK交響楽団のコンサートマスター就任が内定していましたが、これを辞退。1980年に文化庁芸術家在外研究員としてロンドンへの留学を選択しました。ロンドンでは王立音楽大学でジェルジ・パウク氏やベラ・カトーナ氏に師事し、研鑽を積みました。この留学には、後にピアニストとして共に活動することになる蓼沼恵美子夫人も同行しています。1983年にはブリティッシュカウンシルの奨学金を得て、滞在を延長。同年、ミュンヘン国際音楽コンクールでは、夫人とのヴァイオリンとピアノのデュオ部門で第3位に入賞しました。

1984年4月に帰国後、東京芸術大学音楽学部器楽科の専任講師に着任。教育者としてのキャリアをスタートさせると同時に、ソリストや室内楽奏者として本格的な演奏活動を再開しました。1985年4月には助教授に昇任。1989年には再び文部省の在外研究員として英国王立音楽院へ派遣され、さらに学びを深めました。

澤クァルテットの結成と室内楽活動

二度目のロンドン留学中、伝説的なアマデウス弦楽四重奏団のメンバーから大きな影響を受けました。この経験が契機となり、帰国後の1991年に自身の名を冠した澤クァルテット（SAWA QUARTET）を結成。日本の主要な弦楽四重奏団の一つとして、質の高い演奏活動を展開しました。また、1992年以降はアマデウス弦楽四重奏団のメンバーと共に「アンサンブル・アマデウス」としてもコンサートを行い、室内楽の世界で活発な活動を続けました。

教育・文化分野での貢献

2005年には東京芸術大学の教授に昇任。教育者としての地位を確立しました。また、英国王立音楽院の名誉会員に推挙されるなど、国際的な評価も得ています。紀尾井シンフォニエッタ東京のリーダー（2010年4月まで）、響ホール室内合奏団のミュージックアドヴァイザー、千里フィルハーモニア大阪の常任指揮者、フォーバルスカラシップ・ストラディヴァリウス・コンクールの審査委員など、様々な音楽団体やプロジェクトに関与し、日本の音楽界に貢献しました。

特に注目されるのは、2016年4月に東京芸術大学の第10代学長に就任したことです。音楽分野から学長が選ばれるのは、第3代の福井直俊氏以来のことでした。学長として大学運営に尽力した後、その職を退き、2022年には東京芸術大学名誉教授の称号を授与されました。

2020年には文部科学省の文化審議会委員に選ばれ、文化振興にも関わりました。同審議会の文化功労者選考分科会では副委員長を務め、義弟である蓼沼宏一氏が委員長を務める下で、東京芸大に多額の寄付を行った滝久雄氏の文化功労者顕彰の実現に携わっています。

家族

澤氏は、ピアニストの蓼沼恵美子氏と結婚しており、蓼沼氏は第8代一橋大学学長の蓼沼謙一氏の娘にあたります。娘の澤亜樹氏もヴァイオリニストとして活躍しており、藝大フィルハーモニア管弦楽団のコンサートマスターを務めています。また、第17代一橋大学学長の蓼沼宏一氏は義弟にあたります。

演奏家、教育者、そして大学運営者として、日本の音楽界と文化に多角的に貢献した人物です。

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