澤村源之助 (4代目)

四代目 澤村源之助

安政6年（1859年）3月14日に大坂で生まれた歌舞伎役者、四代目澤村源之助（本名：澤村清三郎）は、昭和11年（1936年）4月20日に亡くなるまで、明治・大正・昭和と激動の時代を駆け抜けました。屋号は紀伊國屋、俳名に秋香、青岳を持ち、特に浅草田圃に住んでいたことから「田圃の太夫」という愛称で親しまれました。しゃがれた声と錦絵のように美しい容貌を特徴とし、江戸の最後の女形として、また劇界の長老として厚く尊敬を集めました。

生涯

幼い頃に江戸へ移り、三代目澤村源之助の養子となります。当初は二代目澤村清子を名乗り、後に澤村清三郎と改名。明治3年（1870年）、12歳の時に東京守田座で『廓文章』の吉田屋娘おきよとして初舞台を踏みました。明治6年（1873年）には二代目澤村清十郎を襲名し、若手として経験を積みます。

そして明治19年（1886年）、四代目澤村源之助を襲名。この頃から、九代目市川團十郎や五代目尾上菊五郎といった当時のトップスターの相手役を務める、将来を嘱望される若手女形として活躍しました。明治22年（1889年）に開場した歌舞伎座にも出演していましたが、明治24年（1891年）に大歌舞伎の劇場ではない小芝居の三崎座に出演したことが問題となり、東京の大歌舞伎の舞台から遠ざかることになります。この時期、五代目尾上菊五郎に連れられ、明治25年（1892年）に大阪の角座に出演したことをきっかけに、約5年間を関西で過ごし、活躍の場を大阪に移しました。

明治30年（1897年）に東京へ戻ると、当時、立女形が不在だった初代市川左團次に迎えられ、明治座や浅草の宮戸座で舞台に立ちます。特に、三代目澤村田之助が得意とした悪婆物や世話物の役柄を精力的に演じ、七代目澤村訥子と共に絶大な人気を誇りました。

大正3年（1914年）12月、松竹の要請により再び歌舞伎座の舞台に立つことになります。六代目尾上梅幸が帝国劇場に移り、相方不足に悩んでいた十五代目市村羽左衛門の相手役として、その円熟した至芸を披露しました。その後、大正7年（1918年）からは松竹経営の御國座に出演するなど、再び小芝居を活動の中心としますが、関東大震災や金融恐慌による小芝居の勢力衰退もあり、昭和2年（1927年）8月、三度大歌舞伎の舞台へと復帰しました。

晩年は、団十郎、菊五郎、左團次といった明治の巨匠を知る劇界の生き証人として、六代目尾上菊五郎、初代中村吉右衛門、二代目市川左團次などの後進の若手たちと共に舞台を勤めました。昭和10年（1935年）10月、明治座での『鈴木主水噂新宿』における通人役が最後の舞台となり、翌昭和11年（1936年）4月20日、惜しまれつつこの世を去りました。

なお、劇作家・木村錦花の息子である片岡千代磨が源之助の実娘・栄乃と結婚しており、後に五代目澤村源之助を名乗っています。

芸風と評価

作家の岡本綺堂は、明治18年（1885年）から明治24年（1891年）にかけての短い期間が、源之助にとって最初の全盛期であったと見ています。綺堂にとって、少年時代の記憶に刻まれた源之助像は「水も滴るようなお女郎役者」でした。

源之助は、三代目澤村田之助の芸を受け継ぎ、切られお富、うわばみお由、女團七、鬼神のお松、姐妃のお百、蝮のお市といった、いわゆる悪婆と呼ばれる世話物の色気のある悪女役を得意としました。これらの悪婆の芸は、後に五代目河原崎国太郎や九代目澤村宗十郎へと受け継がれています。

悪婆役以外にも、『籠釣瓶花街酔醒』の八つ橋、『夏祭浪花鑑』の徳兵衛女房おたつ、『侠客春雨傘』の丁山、『天衣紛上野初花』の三千歳など、多くの女形役を演じました。また、『青砥稿花紅彩画』の弁天小僧菊之助や『梅雨小袖昔八丈』の新三といった立役も手掛けています。

特に弁天小僧菊之助については、彼の芸の後継者の一人である尾上多賀之丞が「『白浪五人男』の弁天なんかこりゃ飛び抜けてましたね」「五代目（尾上菊五郎）よりいいんじゃないかって話でしたよ。間合いなんかはね、これはとても五代目だって真似ができないって」「（六代目尾上菊五郎の弁天を見ても）どうひいき目に見ても田圃さんほどいいとは思いませんでした」と証言するほど、極めて高い評価を得ていました。

『夏祭浪花鑑』の徳兵衛女房おたつ役では、大阪滞在中に三代目中村歌六から教わったという「妾がほれているのは顔やない」と言って胸を叩き「ここでござんす」と見得を切る型を披露し絶賛されました。この型は、それまで坂東秀調が演じていた型を凌駕し、現在の主流となるなど、後世の歌舞伎にも大きな影響を与えています。また、初代市川左團次と共に黙阿弥作の『三人吉三巴白浪』を復活上演して大成功を収め、現代まで伝わる演目として定着させた功績も大きいと言えます。

国文学者の折口信夫は著書『役者の一生』の中で源之助の芸について分析しています。三代目田之助の死によって途絶えそうになった悪婆の芸を、一時的に源之助が「間に合わせに」演じることになったことが、かえって彼の役柄を決定付けてしまったと指摘。「人々の渇望に応えて華々しく世に出たのであるが、それは又一面彼にとって不幸なことでもあった」と評し、持って生まれた美貌や本来の芸の可能性を十分に活かしきれなかった側面もあった、という見方を示しています。

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