澤村田之助 (3代目)

三代目澤村田之助



生涯


弘化2年（1845年）3月15日、五代目澤村宗十郎の次男として江戸に生まれた。兄は四代目助高屋高助にあたる。わずか4歳で初舞台を踏み、中村座の『仮名手本忠臣蔵』遠見の小浪役で初代澤村由次郎を名乗る。9歳の時に父を亡くし、兄と共に幼くして劇界の孤児となったが、直後に演じた吉田松若役が評判となり、幼いながらその才能は四代目市川小團次をも感嘆させた。

安政6年（1859年）、中村座で三代目澤村田之助を襲名。翌年には16歳で早くも守田座の立女形に抜擢される。二代目河竹新七（黙阿弥）の作品に数多く出演し、特に『処女翫浮名横櫛』（切られお富）の切られお富や『月缺皿恋路宵闇』（紅皿欠皿）の欠皿などで好評を得た。悪婆役を得意とし、その美貌、美声、そして確かな実力によって江戸、上方、京の三都で絶大な人気を確立。田之助の名前を冠した「田之助髷」「田之助襟」「田之助下駄」といった商品が流行するほど、その影響力は大きかった。

しかし、栄光の絶頂期に悲劇が訪れる。『紅皿欠皿』の舞台で宙乗りの演技中に落下し、その時の負傷が原因で脱疽を患う。病状は年々悪化し、慶応3年（1867年）、ジェームス・カーティス・ヘボンの執刀により右足膝上を切断。アメリカから取り寄せた義足を使用して舞台に復帰するも、病状は一進一退を繰り返した。最終的には右脚を大股の付け根から、左脚を膝から下を失い、さらに両手の指も親指を残してすべて切断するという極限状態に至った。それでも彼は役者として舞台に立ち続けることを諦めず、舞台装置に特別な工夫を凝らして演技を続けた。

明治4年に両手の指を切断したことで、ついに役者生活の続行を断念せざるを得なくなり、明治5年（1872年）に村山座（市村座）での『国性爺姿写真鏡』（古今彦三）の芸者古今役を最後に一度引退する。引退後は芝居茶屋を経営するが、翌明治6年（1873年）には自ら澤村座を開場して舞台に復帰する。しかし、澤村座の興行は振るわず、上方や地方での客演が増えていく。病状の悪化に加え、精神的な変調もきたし、明治10年（1877年）2月の南座での舞台を最後に役者として完全に廃業。翌明治11年（1878年）7月7日、浅草の自宅で33歳という若さで波乱の生涯を閉じた。死因については、鉛白粉による中毒説も唱えられている。

人物


三代目澤村田之助は、容姿、技芸、人気において当時の女形を代表する存在であり、もし長命であれば九代目市川團十郎や五代目尾上菊五郎を凌ぐ大立者になったであろうと評されるほどの実力を持っていた。一方で、気性が激しく、自己中心的で喧嘩早い一面もあったとされ、他の役者との間に多くの衝突を生んだ。九代目市川團十郎とは生涯にわたり不仲であったことが知られる。慶応元年には、自分を差し置いて立女形を務めた五代目大谷友右衛門に対し、『鎌倉三代記』での共演時に舞台上で熱湯を飲ませて辱めるという行為に出たこともあった。また、明治8年に大阪で中村宗十郎と共演した際には、紀伊國屋の名跡を名乗る宗十郎に対し挑発的な言葉を投げかけ、宗十郎を激怒させて降板させるなど、トラブルが絶えない役者でもあった。

その反面、世話物を得意とした五代目尾上菊五郎とは良好な関係を築き、菊五郎の実弟である初代坂東家橘を相手役にたびたび共演している。また、幼い頃に父を亡くし、実力のみでのし上がってきた生い立ちのためか、若き日の十四代目長谷川勘兵衛が自身の障害に合わせて舞台装置を工夫してくれた際には、素直に感謝の言葉を述べ、その才能を高く評価するなど、優れた才能を持つ者に対してはその実力を認めるという二面性も持ち合わせていた。彼の芸は、縁戚にあたる四代目澤村源之助を経て、六代目河原崎國太郎や九代目澤村宗十郎といった後代の役者たちに受け継がれている。

関連作品


三代目澤村田之助の壮絶な生涯や人物像は、後世の人々にも強い印象を与え、様々なジャンルの作品の題材や登場人物となっている。

映画


  • - 『田之助紅』（1947年、主演：十代目嵐雛助）

小説



漫画


  • - 森田信吾 著 『新・栄光なき天才たち』（第一巻）
  • - 村上もとか 著 『JIN-仁-』（作中に重要人物として登場）
  • - 紗久楽さわ 著 『かぶき伊左』（田之助をモデルにした人物が登場）
  • - 岡田屋鉄蔵 著 『MUJIN-無尽-』

テレビドラマ



ラジオドラマ


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