瀬戸南線

瀬戸南線：幻の鉄路を継ぐバスの軌跡

瀬戸南線は、かつて鉄道省、国鉄、そしてJR東海バスが運行していた自動車路線です。その歴史は、鉄道敷設法の改正と、それに伴う鉄道建設の代替手段として自動車に着目したことに始まります。本稿では、瀬戸南線だけでなく、そのルーツである岡多線、関連する瀬戸北線、瀬戸西線、中馬線、恵那線についても解説します。

黎明期：鉄道代替としての自動車

1921年の鉄道敷設法改正では、多くの鉄道建設が計画されました。しかし、その中には不経済な路線も含まれており、自動車による代替が検討されるようになりました。1929年には鉄道省に自動車交通網調査会が設置され、調査の結果、岡崎駅と多治見駅を結ぶ区間が、省営自動車初の路線として選定されました。この区間は、鉄道の先行、短絡という使命を担っていました。

1930年12月20日、省営バス岡多線が開業しました。当初は旅客輸送と貨物輸送の両方を重視していましたが、貨物輸送は不振で、バスの後部に荷物置き場を設けて小口貨物を輸送する方法に転換しました。

戦後の拡大と路線網の形成

運輸省から国鉄に移管された後の1951年には、中馬線が開業し、岡多線と一体で瀬戸・明智を結ぶ運行系統が設定されました。その後、恵那線、安城線、蒲郡線などが次々と開業し、路線網は拡大しました。名古屋駅への乗り入れも開始され、1966年には岡崎・蒲郡・豊橋・浜松を結ぶ直通系統も運行されました。

1957年には国鉄自動車の基本方針として、中長距離運転系統や急行バスの設定が重視され、愛岐道路を経由する名古屋・多治見間の急行バスも開設されました。

路線再編と鉄道の開業

1970年に鉄道の岡多線が開業したことに伴い、国鉄バス岡多線の路線群は、瀬戸記念橋駅を拠点として、瀬戸南線、瀬戸北線、瀬戸西線に改称されました。路線網は、瀬戸南線（安城線、蒲郡線、藤岡線）、瀬戸北線、瀬戸西線（陶都線）、愛岐線、中馬線（恵南線）、恵那線（坂本線）に整理されました。

1980年には、岡崎自動車営業所の構内に「国鉄自動車発祥之地」の石碑が建立されました。

国鉄分割民営化と路線の変化

1987年の国鉄分割民営化により、本路線はJR東海バスに引き継がれました。1988年に岡多線が愛知環状鉄道線として全線開通したことで、本路線が担っていた鉄道の先行、短絡という使命は失われました。その後は、新豊田駅と三河安城駅を結ぶ路線の新設や、「ドリームとよた号」の運行開始などの動きもありましたが、1991年には瀬戸地区と豊田・岡崎地区を結ぶ一般路線は分断されました。

2000年代に入ると、路線バスの営業環境が厳しくなり、2001年には陶都線の大部分がガイドウェイシステム線に移行しました。2002年には恵那線が廃止され、瀬戸南線の岡崎市側の区間も全廃となりました。その後、路線の短縮が進み、2009年にはJR東海バスの一般路線は全廃されました。一部の路線は名鉄バスに引き継がれました。

消滅と歴史の終焉

2021年1月31日、「ドリームとよた号」の廃止をもって、瀬戸南線は完全に消滅しました。これにより、省営バス発祥の地である瀬戸市から、JR東海バスの停留所も姿を消しました。

年表

1921年：鉄道敷設法改正。
1929年：鉄道省、自動車交通網調査会を設置。
1930年12月20日：省営バス岡多線（岡多本線、高蔵寺線）開業。
1949年：日本国有鉄道発足。
1951年：中馬線開業。
1952年：中馬線の支線として恵那線開業。
1955年：陶都線名古屋駅乗り入れ開始。
1958年：愛岐線開業。
1970年：鉄道により岡多線が貨物営業開始。国鉄バス岡多線を瀬戸南線・瀬戸北線に、高蔵寺線を瀬戸西線に改組。
1980年：岡崎自動車営業所に「国鉄自動車発祥之地」の石碑を建立。
1987年4月1日：国鉄分割民営化。東海旅客鉄道（JR東海）の自動車事業部管轄となる。
1988年1月31日：岡多線が愛知環状鉄道線として全線開通。
1991年7月26日：「ドリームとよた号」の運行を開始。
2001年3月23日：陶都線の一般路線の大半がガイドウェイシステム線へ移行。
2002年2月1日：中津川地区の恵那線を北恵那交通に移管し廃止。
2002年4月1日：瀬戸南線の岡崎市側の区間が全廃。
2009年10月1日：JR東海バス、残る一般路線を全廃。
2021年1月31日：「ドリームとよた号」運行終了、路線免許も含めて本路線が完全に消滅。

路線一覧

開業当初

岡多本線：岡崎駅 - 瀬戸記念橋駅 - 多治見駅
高蔵寺線：瀬戸記念橋 - 高蔵寺

1986年時点

瀬戸南線：岡崎 - 瀬戸記念橋、各支線
瀬戸北線：瀬戸記念橋 - 多治見、各支線
瀬戸西線：瀬戸記念橋 - 名古屋、各支線
中馬線：品野 - 片草、各支線
恵那線：中津川 - 根之上高原、各支線

2009年3月時点

瀬戸南線：岡崎駅 - 瀬戸記念橋駅、ドリームとよた号運行区間
瀬戸北線：瀬戸市駅 - 上品野
瀬戸西線：瀬戸市駅 - 中水野、春日井駅 - 大池住宅前、鹿乗橋 - 高蔵寺駅、他

運行系統

瀬戸北線：瀬戸市駅 - 瀬戸記念橋駅 - 品野 - 上品野
瀬戸循環線：瀬戸市駅 - 水野団地 - 瀬戸市駅
ガイドウェイシステム線（ゆとりーとライン）：瀬戸みずの坂 - 大曽根駅
春日井線：春日井駅 - 大池住宅前
玉野台循環線：高蔵寺駅 - 玉野台団地 - 高蔵寺駅

主な自動車駅

瀬戸記念橋駅
瀬戸追分駅

担当営業所

瀬戸支店（旧瀬戸営業所、瀬戸自動車営業所）
岡崎営業所（旧岡崎自動車営業所）
中津川営業所（旧瀬戸自動車営業所中津川支所）

関連項目

愛知環状鉄道線
中央ライナー号

参考文献

『鉄道ジャーナル』1984年6月号「特集・国鉄バス1984」
バスジャパン・ハンドブック14「ジェイアール東海バス」 ISBN 4795277788

外部リンク

* 鉄道博物館展示資料紹介「国鉄バス第1号車」

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