無名都市

無名都市：クトゥルフ神話の謎めいた古代都市

クトゥルフ神話において、無名都市（The Nameless City）は、その神秘的な雰囲気と不可解な歴史で知られる架空の都市です。H.P.ラヴクラフト（以下HPL）の同名小説（1921年発表）で初登場し、その後、多くの作家によって様々な解釈が加えられ、クトゥルフ神話の重要な舞台として位置づけられています。

HPL原作『無名都市』：砂漠に埋もれた古代都市

HPLの原作小説では、物語の語り手は未踏の砂漠を旅し、伝説の無名都市にたどり着きます。そこは、砂に半ば埋もれた、天井の異様に低い地下都市でした。神殿と思われる空間には、低い天井や奇妙な祭壇など、人間が建造したとは思えない構造物が存在します。

語り手は、不気味な風の流れを辿り、さらに別の地下神殿を発見します。そこには、豪華な衣装を身につけた爬虫類のミイラが金色の箱に納められ、壁には古代の人々の歴史を描いた絵画が描かれていました。絵画からは、この爬虫類種族が無名都市の支配者階級であり、敵対勢力である円柱都市アイレムの人々を虐殺していた様子がうかがえます。

低い天井は、この爬虫類種族の身長に合わせて造られたものであり、彼らが這うように移動していたことを示唆しています。物語のクライマックスでは、語り手は風の流れに巻き込まれ、地底の深淵へと突き落とされます。そこで目にしたのは、無名都市の住人である爬虫類種族の群れでした。彼らは肉体を捨て、地底の異界へと移行したものの、夜な夜な悪霊として地上に現れ、朝日とともに消える存在として描かれています。

無名都市の設定：多様な解釈とアレンジ

HPL原作における無名都市は、アブドゥル・アルハザードによって「夢の中で見た」とされる古代都市として描かれています。そのため、無名都市が現実世界なのか、ドリームランド（夢の世界）なのかは曖昧にされています。中東のアラビア半島南部、ルブアルハリ砂漠（「真紅の砂漠」）に存在するとされ、「メンフィスに礎石が置かれ、バビロンの煉瓦が焼かれるよりも前の太古から」存在していたとされています。

他のクトゥルフ神話作家は、HPLの無名都市の設定を独自に解釈、拡張しています。

オーガスト・ダーレス: ダーレスは『永劫の探究』において、無名都市を元は海底都市であったと設定し、クトゥルフを崇拝する爬虫類種族が1000万年にわたって住んでいたと記述しています。海底から浮上し砂漠に出現した無名都市からは冷気が発せられ、その冷気を辿ることで位置を特定できるとされています。ダーレスの設定では、無名都市はクトゥルフ教団の拠点であった時期を経て、後に旧支配者ハスターの支配地となっています。
リン・カーター: カーターは、無名都市を旧支配者ムノムクアの支配地としています。

これらのアレンジによって、無名都市は単なる古代都市という枠を超え、クトゥルフ神話世界の様々な勢力や存在が絡み合う重要な舞台となっています。

関連作品と関連項目

無名都市が登場する作品は、HPLの『クトゥルフの呼び声』をはじめ、ダーレスの『永劫の探究』、カーターの『ムノムクアー』など、多数存在します。また、無名都市の住人である爬虫類種族、円柱都市アイレム、アルハザードのランプなど、関連する概念やアイテムもクトゥルフ神話の重要な要素となっています。特に円柱都市アイレムは、コーランにも登場する伝説の都市であり、無名都市としばしば混同されていますが、明確に区別されるべき存在です。

まとめ

無名都市は、その曖昧な位置づけ、不可解な歴史、そして様々な作家による解釈を通じて、クトゥルフ神話において最も魅力的で謎めいた場所の一つです。HPL原作における恐ろしい爬虫類種族、他の作家によるアレンジされた設定、そして関連する様々な要素は、読者に想像力を掻き立て、クトゥルフ神話の世界観をより深く理解させる上で重要な役割を果たしています。この都市に関する研究は、クトゥルフ神話研究において常に重要なテーマであり続けるでしょう。

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