無線従事者養成課程

無線従事者養成課程

無線従事者養成課程とは、無線従事者の免許を取得するための養成課程のことです。電波法では単に「養成課程」とありますが、本記事では「無線従事者養成課程」として解説します。

定義

総務省令無線従事者規則第2条第2号において、「養成課程」は「電波法第41条第2項第2号に規定する無線従事者の養成課程」と定義されています。ここでいう「法」とは電波法の略です。

概要

電波法第41条第1項では、無線従事者となるには総務大臣の免許が必要と規定されています。同条第2項では、免許取得の要件として、国家試験合格の他に、「総務省令で定める無線従事者の養成課程で、総務大臣が認定したものを修了した者」が挙げられています。

つまり、この養成課程を修了することで、国家試験に合格することなく無線従事者の免許を取得できます。この総務省令とは無線従事者規則のことで、第3章に「養成課程の認定」について規定されています。

養成課程の対象となるのは、主に中級・初級レベルの無線従事者です。認定は、無線従事者規則第21条第1項第1号に基づき、総合通信局長が行います。養成課程を実施できるのは、以下のいずれかの者です。

当該養成課程に係る資格の無線従事者の養成を業務とする者
その業務のために当該養成課程に係る資格の無線従事者の養成を必要とする者

これにより、無線従事者の教育機関だけでなく、官公庁や電気通信事業者、放送事業者なども、自社内の教育の一環として養成課程を実施できます。

養成課程の認定を受けた実施団体は、無線従事者規則第24条により「認定施設者」と呼ばれます。養成課程講習会とも呼ばれますが、総合無線通信士、海上[[無線通信士]]、陸上無線技術士の免許取得のための認定講習課程とは異なります。

経緯

1965年の制度化当時、無線従事者の国家試験は年2回、地方電波監理局（現在の総合通信局）所在地で平日の昼間に実施されており、免許取得の機会は限られていました。当時、移動体通信の黎明期で、無線機器を使用する官公庁や企業が増加し、特殊無線技士の需要が高まっていました。また、アマチュア無線も大衆化し始め、国家試験の受験者数が急増していました。

この需要に応えるため、養成課程制度が導入されました。休日や夜間、地方でも実施されるようになり、免許取得の機会が増えました。制度化当初、認定施設者は非営利団体に限られていましたが、1996年からは学校等で1年以上の教育課程に無線通信に関する科目があれば養成課程とすることが可能になりました（長期型養成課程）。2009年からは営利団体も認定施設者になれるようになり、実施団体の新規参入が促進されました。

対象

無線従事者規則第20条によると、養成課程の対象となるのは以下の資格です。

第三級・第四級海上[[無線通信士]]（三海通・四海通）
第一級・第二級・第三級・レーダー級海上[[特殊無線技士]]（一海特・二海特・三海特・レーダー級）
航空無線通信士（航空通）
航空特殊無線技士（航空特）
第一級・第二級・第三級・国内電信級陸上特殊無線技士（一陸特・二陸特・三陸特・国内電信）
第二級・第三級・第四級アマチュア無線技士（2アマ・3アマ・4アマ）

ただし、長期型養成課程についてはアマチュア無線技士は対象外です。

航空通の受講には一定の学歴または免許が必要で、一陸特の受講には一定の学歴、免許、職務経歴のいずれかが必要です。これらの要件を満たさない場合でも、選抜試験に合格すれば受講できます。また、無線従事者の免許取得に国籍制限はありません。

日本無線協会は、外国人船員向けに三海通と一海特の養成課程を実施しており、船舶局無線従事者証明の訓練も行っています。

実施

養成課程の実施は、無線従事者規則第21条第1項第6号に基づく総務省告示によって定められています。制度化当初から民間での実施が想定されており、天災等で実施できなくなっても、国が代替の養成課程を行うことはありません。手数料も認定施設者ごとに異なります。

新規参入団体が実施するのは、需要の高い資格が多い傾向にあります。一般公募されているのは海事関係の非営利団体による一・二・三海特、一・二・三陸特、二海特、3・4アマがほとんどです。受託については、一般公募をしている団体の一部が応じるほか、公募していない資格でも応じる場合があります。企業や学校が在勤者・在学者を対象に実施する事例もあります。

時間数

無線従事者規則第21条第1項第6号に基づく別表第6号により、各資格の最低授業時間数が定められています。ただし、総合通信局長が認めた方法による場合は、時間数を変更できます。

日本無線協会では、免許保有者を対象とした二海特と二陸特の短縮コースを、3アマの実施団体では4アマとの差分を授業する3級短縮コース、日本アマチュア無線振興協会では3アマとの差分を授業する2級短縮コースを設けています。また、日本無線協会では学歴や資格に応じて一部科目の授業時間を減免しています。

授業

当初は集合形式での対面授業のみでしたが、eラーニングによる授業も可能になりました。無線従事者規則第21条第1項第7号では、授業形態を以下の2つに分類しています。

同時受講型授業：
集合形式での対面授業
電気通信回線を使った同時双方向授業
電気通信回線を使った同時配信授業
随時受講型授業：
電気通信回線を使ったオンデマンド授業
記録媒体を使ったオンデマンド授業

日本無線協会は外国人船員向けの養成課程で、日本アマチュア無線振興協会は第2級・第3級コースでeラーニングを利用しています。新規参入団体の中にも、eラーニング授業を提供する団体があります。

講師の要件

講師の要件は、無線従事者規則第21条第1項第8号に基づく別表第7号に定められています。総合通信局長が同等以上の知識・技能を持つと認めた者も講師になることができます。

教科書

教科書は、無線従事者規則第21条第1項第8号に基づく告示によるもの、または同等のものが使用されます。市販されているものもあり、国家試験の参考書としても利用できます。

修了試験

修了試験は、無線従事者規則第21条第1項第11号に基づく告示により、筆記試験だけでなくCBT（Computer Based Testing）によることも可能です。試験時間は国家試験と若干異なる場合があります。

筆記試験は多肢選択式（三海特のみ正誤式）で、マークシートの使用は義務付けられていません。一部記述式での出題も可能です。日本アマチュア無線振興協会のeラーニングによる第2級・第3級コースの修了試験はCBTで行われます。第2級コースでは対面試験を選択することも可能です。eラーニング授業を行う他の団体でもCBTによる試験が行われています。

合格基準は告示に規定されており、筆記試験は科目毎に100点満点で60点以上、実地試験は電気通信術の合格基準に準じます。

身体機能に障害のある人の受講

電波法第42条では、「著しく心身に欠陥があって無線従事者たるに適しない者」には免許を与えないことがあると規定されています。しかし、無線従事者規則第45条第3項により、第三級陸上特殊無線技士とアマチュア無線技士については、身体機能に障害があっても免許を取得できます。つまり、意思疎通ができれば受講可能で、修了試験もCBTや筆記以外の方法で行うことができます。事例としては、視覚障害者を対象とした4アマの養成課程が少数存在します。

長期型養成課程

長期型養成課程は、高等学校以上の教育課程を持つ学校を対象とした養成課程です。eラーニングによる授業とCBTによる修了試験を実施できます。授業時間数は、無線従事者規則第21条第2項第5号に基づく別表第7号の2によります。

講師の要件は、大学または高等専門学校で無線通信に関する科目を担当する教授、准[[教授]]、または同等の知識・技能を持つと総合通信局長が認める者です。類似制度として、二海特・三海特、一陸特・二陸特・三陸特の5種別は、学校で所定科目を履修し卒業すれば取得できますが、長期型養成課程では所定科目を修了すればよく、卒業は必須条件ではありません。

実施状況

沿革

1965年：制度化。特殊無線技士（多重無線設備）、（レーダー）、（無線電話甲）、（無線電話乙）、（国内無線電信）、電信アマ、電話アマが対象
1971年：特殊無線技士（無線電話丙）が対象に追加
1983年：特殊無線技士（国際無線電話）が対象に追加
1984年：特殊無線技士（無線電話丁）が対象に追加
1990年：日本電波協会が日本無線協会と合併。無線従事者の資格再編により、一海特、二海特、三海特、レーダー級、航空特、一陸特、二陸特、三陸特、国内電信、3アマ、4アマが対象
1991年：日本アマチュア無線振興協会設立
1993年：日本アマチュア無線振興協会が3アマ、4アマの養成課程を開始
1996年：三海通、四海通、航空通が対象に追加。3アマ、4アマ以外の12種別が長期型養成課程の対象
2009年：営利団体が認定施設者になれる
2013年：eラーニング授業とCBTによる修了試験が可能に
2015年：2アマが対象に追加

関連情報

関連項目

無線従事者
海上[[無線通信士]]
海上[[特殊無線技士]]
航空無線通信士
航空特殊無線技士
陸上特殊無線技士
アマチュア無線技士
無線従事者認定講習課程
日本無線協会
日本アマチュア無線振興協会

外部リンク

情報通信振興会
情報通信法令wiki - 用語解説
無線従事者養成課程
養成課程の認定の基準
* 日本無線協会 - よくある質問6 養成課程についてのQ&A

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