熊野 (重巡洋艦)

重巡洋艦「熊野」：建造から悲劇のレイテ沖海戦まで

本稿では、日本海軍の重巡洋艦「熊野」の艦歴を詳細に解説します。「熊野」は最上型重巡洋艦の4番艦として知られ、当初は15.5cm砲を搭載する軽巡洋艦として建造されましたが、後に主砲を20cm砲に換装し、重巡洋艦に分類変更されました。ただし、日本海軍の公式な分類は最後まで軽巡洋艦のままだった点も特筆すべきでしょう。

艦名の由来と艦内神社

「熊野」という艦名は、奈良県、和歌山県、三重県を流れる熊野川に由来しています。日本海軍では、明治時代の水雷母艦「熊野丸」、そして大正3年に日本郵船から購入した水雷母艦「熊野丸」にも同名の艦が存在しました。また、日露戦争後にロシア帝国の装甲巡洋艦「バヤーン」を鹵獲した際にも候補艦名として挙がっていた記録が残っています。
興味深いことに、「熊野」の艦内神社は熊野坐神社（現在の熊野本宮大社）を模して建造されました。建造時に寄贈されたもので、毎月1日には例祭が行われていたと伝えられています。

艦型と特徴

「熊野」は、老朽化した旧式軽巡洋艦の代替として建造されました。当初は4隻（龍田、天龍、球磨、多摩）を4隻（最上、鈴谷、三隈、熊野）で更新する計画でしたが、建造途中に発生した「第四艦隊事件」により、最上型の船体強度問題が明らかになり、船体線図が修正されました。このため、「熊野」は1番艦「最上」、2番艦「三隈」とは船体形状に差異があり、「鈴谷型」として分類される場合もあります。しかしながら、日本海軍の公式な分類では4隻とも最上型軽巡洋艦とされていました。
ボイラーに関しても、「最上」と「三隈」の重油専焼罐大型8基小型2基計10基に対し、「熊野」は大型8基に減らされました。そのため、第3砲塔と艦橋構造物間の吸気トランクがなくなり、一番煙突の太さも細くなっています。

艦歴：太平洋戦争開戦まで

「熊野」は仮称艦名「第4号中型巡洋艦」として、1934年（昭和9年）3月10日に命名され、4月5日に川崎重工業神戸造船所で起工されました。1936年（昭和11年）10月15日には進水式が執り行われ、呉海軍工廠で製造された15.5cm三連装砲塔は給油艦「知床」によって神戸へ運ばれました。1937年（昭和12年）10月31日には竣工、同型艦「鈴谷」と同時に就役しました。同年12月1日、最上型4隻（最上、三隈、鈴谷、熊野）によって第七戦隊が編成され、「熊野」は旗艦に任ぜられました。
1939年（昭和14年）には予備艦に指定され、15.5cm砲から20.3cm連装砲塔への換装工事が行われました。同年11月には第七戦隊が再編され、「熊野」は再び旗艦となりました。1940年（昭和15年）には紀元二千六百年特別観艦式にも参加しています。

太平洋戦争：ミッドウェー海戦

太平洋戦争開戦後はマレー上陸作戦、蘭印作戦に参加。1942年（昭和17年）3月1日のバタビア沖海戦では第七戦隊第2小隊のみが参加しました。この海戦では、第五水雷戦隊司令官と第七戦隊司令官栗田健男少将との間で、決戦か距離保持かという意見の相違があり、連合艦隊司令部が仲裁に入る事態も発生しています。
4月からはインド洋作戦に参加し、ベンガル湾で通商破壊作戦に従事。その後、ミッドウェー作戦に参加しますが、作戦中止命令が出され、この際に発生した同型艦「三隈」との衝突や、栗田少将の作戦指揮をめぐる議論は現在も語り継がれています。ミッドウェー海戦後、「熊野」は大きな損害を免れて生還しました。

ガダルカナルの戦い

その後もガダルカナルの戦い、ソロモン諸島での戦闘に参加し、バリクパパンで座礁するアクシデントもありましたが、無事に復旧しました。第二次ソロモン海戦ではB-17爆撃機と交戦しましたが、被害と戦果はありませんでした。南太平洋海戦では空襲を受け至近弾を受け、機関故障も発生し第七戦隊旗艦の座を「鈴谷」に譲りました。その後、修理のため日本本土へ回航され、マニラからラバウルへの輸送任務にも従事しました。

レイテ沖海戦と最期

1944年（昭和19年）6月にはマリアナ沖海戦に参加、その後シンガポールの陸軍部隊輸送任務にも従事しました。そして、レイテ沖海戦では第一遊撃部隊に所属し、激しい戦闘を経験しました。この海戦で「熊野」は大破し、艦首を失うなど大きな被害を受けました。アメリカ潜水艦の雷撃や空襲による被害は甚大で、航行不能に陥るも、応急修理を繰り返しながらマニラへ回航されました。しかし、マニラ空襲や、回航途中の潜水艦の雷撃により、最終的に11月25日、サンタクルーズ沖で沈没しました。多くの乗員が戦死するという悲劇的な最期を迎えました。

戦後の慰霊

1968年（昭和43年）、サンタクルーズ沖で「熊野」の沈没船体が発見されました。1978年（昭和53年）には、呉市長迫公園に慰霊碑が建立されています。

参考文献

本稿は、上記の参考文献を参考に執筆されました。これらの文献には、当時の戦時日誌、関係者の証言、戦史研究家の分析など、多様な情報源が含まれています。 これらの情報源を総合的に分析することで、「熊野」の艦歴をより詳細に、そして客観的に記述することを目指しました。

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