熊野牛王符

熊野牛王符について

熊野牛王符（くまのごおうふ）、または熊野牛玉符は、熊野三山において特に重要視される神札です。この神札は、一般的なものとは異なり、一枚ものの和紙に墨と木版で手刷りされており、朱印が押されています。独自の意匠として、多くの烏のデザインが用いられ、特に「烏文字」と呼ばれる文字構成が特徴的です。

種類と意匠

熊野牛王符には、主に「那智瀧宝印」「熊野山宝印（本宮）」「熊野山宝印（新宮）」の3つの種類があります。一部の神社ではこれ以外にも「神蔵牛玉宝印」が発行されており、地域によって意匠が異なるため、一言で分類することは難しいとされています。特に烏文字は、烏の配置によって文字を形作るため、読みづらさが際立っています。

利用方法

一般的な護符としての利用

熊野牛王符は、さまざまな方法で護符として利用されます。例えば、

• - かまどの上に祀り、火災から守る。
• - 玄関に置いて、盗難から身を守る。
• - 懐に入れ、船や飛行機での酔いを軽減する。
• - 病人の床に敷き、健康回復を祈願する。

このように、熊野牛王符は日常生活の中で、特に安全や健康に関連した護符として広く使用されています。

誓約書としての利用

また、熊野牛王符は誓約書としても機能します。牛王符の裏面に誓約内容を書き込むことで、誓いを熊野権現に対して立てたとされます。誓約を破ると、カラスが死ぬ、そして違反者も不幸に見舞われるとの信仰があります。この起請文の形態を「熊野誓紙」と呼び、火起請の場合には、特別な儀式が行われます。

歴史的背景

熊野牛王符の起源については、はっきりとした記録はありませんが、素戔嗚尊や天照大神の誓約に由来しているとの説や、熊野の烏による助けが伝説として語られています。また、「牛王」「牛玉」は「最上のもの」を意味し、漢方薬に使われる牛黄との関連性が指摘されることもあります。

熊野本宮大社での牛王神符の記録は、天武天皇の白鳳11年にも存在し、古くから重要な役割を果たしてきました。また、鎌倉時代の文永3年には、僧侶の間で紛争を解決するために熊野牛王符が利用されたことも記録に残っています。

戦国時代には、大名間での誓約に使用され、豊臣秀吉の臨終時には、五大老や五奉行が熊野牛王符に誓約を交わしました。江戸時代には、遊女たちが熊野誓紙を使って客との擬似的な結婚を取り交わす風習が広まりました。これは後に演劇や落語にも影響を与えました。

現代においても、熊野本宮大社の神前結婚式では、誓いの証拠として牛王符が用いられるなど、その影響は色濃く残っています。

まとめ

熊野牛王符は、ただの護符ではなく、さまざまな歴史的背景や地域文化を反映した奥深い神札です。古今にわたり、社会生活の中で多くの人々にとって大切な存在であり続けています。

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