熱田大宮司家

熱田大宮司家とは

熱田大宮司家（あつただいぐうじけ）は、尾張国（現在の愛知県西部）にある熱田神宮の長官である大宮司の職を世襲した氏族です。古代より熱田神宮の大宮司職は尾張氏が務めていましたが、平安時代後期に藤原季範（ふじわらのすえのり）が継承して以降、明治時代初期まで藤原氏一門が務めることになりました。

藤原氏による大宮司職の世襲

藤原季範は、尾張氏の娘婿にあたる人物でした。熱田神宮は当時、尾張国において非常に重要な神社であり、大宮司は大きな権力を持っていました。季範が大宮司職を継承した背景には、当時の尾張氏の内部事情や、藤原氏の台頭といった、複雑な事情が絡み合っていたと考えられています。

季範の娘は源義朝（みなもとのよしとも）の妻となり、その間に生まれたのが鎌倉幕府を開いた源頼朝（みなもとのよりとも）です。このことから、熱田大宮司家は武家とも非常に親密な関係を持つことになりました。季範の子である範忠（のりただ）、範信（のりのぶ）、範雅（のりまさ）の三流に分かれ、それぞれが大宮司を輩出、多くが京官も兼ねて勢力を拡大しました。範忠流は、大江氏から養子を迎えたため、一時的に大江氏がこの地位を占めたこともあります。

鎌倉時代

鎌倉時代に入ると、熱田大宮司家は源頼朝の外戚として幕府内で特別な存在となりました。頼朝は熱田神宮を非常に重視し、鎌倉の鶴岡八幡宮の摂社として勧請するなど、手厚く保護しました。しかし、承久の乱（1221年）では、大宮司家一門の多くが朝廷側についたため、幕府から所領を没収されるなど、大きな打撃を受けました。その後、大宮司職は幕府の意向によって左右されるようになり、一族内での争いも激化しました。

室町時代

室町時代には、熱田大宮司家は足利将軍家との関係を深めました。大宮司一門は、奉公衆として将軍に仕え、京都と熱田神宮を行き来する生活を送りました。この時代を通じて、大宮司職に就く系統は確定せず、野田氏や萩氏、星野氏といった分家も大宮司を務めることがありました。しかし、次第に千秋家（せんしゅうけ）が大宮司職を世襲するようになり、戦国時代以降は、千秋家のみが大宮司職を継承することになります。

戦国時代から江戸時代へ

戦国時代に入ると、熱田大宮司家は織田信長に従い、武家としての活動を終え、祭祀に専念するようになりました。江戸時代には、尾張藩の庇護を受け、大宮司家領として尾張国愛智郡野並郷の717石を知行しました。

明治維新後、華族令により千秋季隆（せんしゅうすえたか）が男爵に叙せられました。季隆は国文学者としても活躍し、東京帝国大学教授や貴族院議員などを務めました。

熱田大宮司家の変遷

熱田大宮司家は、古代から中世にかけて、その立場を大きく変えてきました。最初は尾張氏という地方豪族の一員として熱田神宮の祭祀を担っていましたが、平安時代には藤原氏という中央貴族の傘下に入り、鎌倉時代には武家政権と関係を深めました。室町時代には足利将軍家に仕え、戦国時代には織田信長に従い、江戸時代には尾張藩の庇護を受けました。

このように、熱田大宮司家は時代の変化に応じて、その性格を変えながらも、熱田神宮の大宮司職を守り続けてきました。これは、大宮司家が単なる神職の家系ではなく、政治・社会の変動に深く関わりながら生き抜いてきたことを示しています。

熱田大宮司家の系譜

熱田大宮司家の系譜は非常に複雑であり、多くの分家が存在しました。特に重要なのは、藤原季範の子孫である範忠流、範信流、範雅流の三つの系統です。これらの系統から、多くの子孫が生まれ、それぞれが熱田神宮の祭祀や、幕府・朝廷での活動に関わりました。

室町時代以降は、千秋家が熱田大宮司職を世襲するようになり、現在に至っています。千秋家は、熱田大宮司家の歴史を語る上で、最も重要な一族の一つといえるでしょう。

熱田大宮司家の歴史的意義

熱田大宮司家は、日本の歴史において重要な役割を果たした氏族の一つです。その歴史は、熱田神宮の歴史そのものであり、古代から中世、近世、そして現代に至るまで、日本の社会や文化に大きな影響を与えてきました。

また、熱田大宮司家は、武家や公家との関係を通じて、日本の政治や社会の動きにも深く関わってきました。その歴史を紐解くことは、日本の歴史を理解する上で非常に重要な意味を持っています。

熱田大宮司家に関する参考文献

熱田大宮司家に関する研究は、数多く存在します。以下に代表的なものを挙げます。

藤本元啓『中世熱田社の構造と展開』続群書類従完成会、2003年
愛知県史編さん委員会編『愛知県史』通史編 2 (中世 1)、愛知県、2018年
* 谷口雄太編『東海の中世史：足利一門と動乱の東海』第2巻、吉川弘文館、2024年

これらの文献は、熱田大宮司家の歴史をより深く理解するための手がかりとなるでしょう。

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