片山兼山

片山兼山：折衷学派の先駆者、その生涯と学問

片山兼山（1730年 - 1782年）は、江戸時代中期に活躍した儒学者です。号を兼山と称し、名は世璠（せばん、またはせはん）、字は叔瑟（しゅくしつ）、通称は東造（とうぞう）でした。一字姓を用いた山世璠（やませばん）という名も使用しました。

徂徠学派からの独立、そして折衷学派へ

兼山は当初、徂徠学派に属し、鵜殿士寧（うどのしねい）や服部南郭（はっとりなんかく）に師事しました。しかし、同門の秋山玉山（あきやまたまざん）との縁で熊本藩に仕え、藩校である時習館（じしゅうかん）で6年間儒員を務めた後、江戸に戻ります。その後、同じく徂徠学派の宇佐美灊水（うさみせんすい）の養子となりますが、やがて徂徠学に疑問を抱き、独立の道を歩むことになります。

独立後、兼山は特定の学派に偏ることなく、漢宋諸家の説を折衷する独自の立場を確立しました。徂徠学を批判的に捉え、より幅広い視点から学問を探求したのです。彼の学問は「山子学（さんしがく）」と呼ばれ、多くの門下生を輩出しました。

晩年と業績

晩年の兼山は、尾張藩が主導した『群書治要』の校刻事業（『群書治要』天明版・尾張本）にも深く関与しました。これは彼の学識と見識が広く認められていた証左と言えるでしょう。

兼山の墓所は、東京都港区にある真宗大谷派の明福寺（みょうふくじ）にあります。

主な著書

兼山は、四書五経や『文選』といった古典に対する訓点（通称「山子点」）でも知られています。その他、以下のような著書を残しました。

『山子垂統（さんしすいとう）』
『山子遺文（さんしいぶん）』
『古文孝経孔伝参疏（こぶんこうきょうこうでんさんそ）』
『学庸解廃疾（がくようかいはいしつ）』
『論語一貫（ろんごいっかん）』
『周易類考（しゅうえきルイこう）』
『尚書類考（しょうしょルイこう）』
『毛詩類考（もうしルイこう）』

山子学派とその影響

兼山の門下生たちは「山子学派」と呼ばれ、師の学問を受け継ぎ、発展させました。彼らによって、『荀子増注（じゅんしぞうちゅう）』（『荀子』の注釈書）や『呂氏一適（りょしいってき）』（『呂氏春秋』の注釈書）などが著されています。

関連人物

兼山の血縁者や門下生には、以下のような人物がいます。

朝川善庵（あさかわぜんあん）：息子
片山述堂（かたやまじゅつどう）：孫
萩原大麓（はぎわらだいろく）：門人
久保筑水（くぼちくすい）（久保愛）：門人、『荀子増注』の著者

まとめ

片山兼山は、徂徠学派から独立し、漢宋諸家の説を折衷する独自の学問を確立した、江戸時代中期を代表する儒学者の一人です。彼の学問は「山子学」として後世に影響を与え、多くの門下生を輩出しました。また、古典の訓点や注釈、著述活動を通じて、日本の学術文化の発展に大きく貢献しました。

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