牛タン戦術

牛タン戦術とは：議事妨害の戦術を徹底解説

牛タン戦術とは、議事妨害の一種であり、議場において議員が長々と演説を繰り広げることで、議事の進行を遅らせる戦術です。日本では、フィリバスターという言葉がこの牛タン戦術を指すことが一般的です。

牛タン戦術の概要

牛タン戦術は、単なる時間稼ぎにとどまらず、長時間の演説を通じて反対派の説得を試みるという側面も持ち合わせています。しかし、日本の国会においては、政党の党議拘束が強く、個々の議員の説得が議決を左右することは稀です。そのため、牛タン戦術は、むしろ時間切れを狙い、強行採決を阻止するための手段として用いられることが多いです。

アメリカ合衆国上院やイギリス下院では、演説時間に対する制限が緩く、討論打ち切りの条件も厳格であるため、牛タン戦術に対する抵抗は比較的少ない傾向にあります。しかし、日本の国会では、演説や答弁の時間は事前に割り振られており、時間超過は議長によって制止される場合があります。そのため、牛タン戦術が米英のように極端な長時間を記録することは稀です。

牛タン戦術は、内閣不信任決議案や大臣問責決議案、議長不信任決議案などの提出と組み合わせて行われることもあります。これらの決議案を提出することで、採決を遅らせ、議事の進行を妨げることが目的です。ただし、内閣不信任決議案は衆議院のみで提出可能であるため、参議院では大臣に対する問責決議案が用いられます。

牛タン戦術の主な事例

牛タン戦術は、日本の議会政治において古くから用いられてきた戦術です。

明治時代の例: 1891年の帝国議会第1回議会では、政府予算案に対する反対から、清岡公張らが長時間の質問を行い、時間切れを狙いました。清岡の発言は4時間に及んだと記録されています。
戦前の例: 1929年には、衆議院議員選挙法改正案（小選挙区制導入）に対し、立憲民政党の武富濟が5時間30分に及ぶ演説を行い、当時の憲政史上最長記録を樹立しました。尾崎行雄、斎藤隆夫、亀井貫一郎なども長時間の演説を行っています。
戦後の例: 1999年の組織犯罪対策三法案審議では、民主党の円より子議員が2時間8分の演説を行うなど、野党議員が軒並み1時間前後の演説を行いました。2004年の年金改正法案審議では、民主党の森裕子議員が3時間1分の演説を行い、「戦後国会で最長」と報道されました。
近年の例: 2018年には、立憲民主党の西村智奈美議員が加藤勝信厚生労働大臣不信任決議案に対し、2時間6分の趣旨弁明を行いました。同年、枝野幸男議員が安倍内閣不信任決議案に対し、2時間40分の趣旨弁明を行いました。2024年には、山井和則議員が小野寺五典予算委員長解任決議案に対し、2時間54分の趣旨説明を行いました。

政府側の牛タン戦術

通常、牛タン戦術は野党が議事進行を遅らせるために用いる戦術ですが、政府側も答弁において牛タン戦術を用いることがあります。衆議院の質疑では、質問時間と答弁時間が合わせてカウントされるため、政府が答弁を意図的に長引かせることで、野党側の質問時間を削り、追及をかわすという目的があります。

参議院では、質問時間のみがカウントされるため、答弁の引き延ばしは効果がありません。しかし、2006年に参議院で往復方式（質問時間と答弁時間を合わせてカウントする方式）が試験的に導入された際には、政府側の答弁が長くなる傾向が見られました。

まとめ

牛タン戦術は、議会における少数派が、議事の進行を遅らせ、議論を喚起するための手段として用いられてきました。しかし、その効果は、議会のルールや政治状況によって大きく左右されます。近年では、SNS等を通じて議事の様子が公開されることも多く、牛タン戦術に対する世論の反応も、その効果に影響を与えると考えられます。

参考文献

前田英昭　『エピソードで綴る国会の100年―明治・大正・昭和・平成』　原書房

関連項目

議事妨害
強行採決
牛歩戦術
* スミス都へ行く

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