牛李の党争

牛李の党争：唐王朝を揺るがした政治闘争

牛李の党争（ぎゅうりのとうそう）は、中国の唐代、特に憲宗朝から宣宗朝にかけて（808年～849年）朝廷内で繰り広げられた激しい政治闘争です。牛僧孺（ぎゅうそうじゅ）や李宗閔（りそうびん）を中心とする牛党と、李徳裕（りとくゆう）を代表とする李党が、互いの勢力を激しく争い、唐王朝の衰退を招いた要因の一つとされています。

党争の背景

魏晋南北朝時代、貴族は家柄と血統によって高位の官職を独占していました。隋の時代に科挙制度が導入され、試験による官僚登用が始まりましたが、唐初期においても貴族の勢力は依然として強く、科挙出身者の進出は限られていました。

当時の貴族勢力は、後漢時代からの伝統を持つ山東貴族（崔・盧・李・鄭の四姓など）が最上位とされ、次いで鮮卑系の関隴集団が勢力を持っていました。これらの貴族は官僚人事を司る尚書省吏部を掌握し、科挙官僚が中央政界に進出するのを阻んでいました。

党争の勃発

玄宗の時代に発生した安史の乱によって唐の国力は大きく衰え、地方では節度使が半独立状態となる藩鎮が各地で跋扈するようになりました。憲宗の時代には、杜黄裳（とこうしょう）や武元衡（ぶげんこう）、李吉甫（りきっぽ）らの主導により、朝廷に反抗的な藩鎮を武力で討伐する政策がとられ、一時的に唐は中興を迎えました。しかし、武力討伐の費用は財政を悪化させ、藩鎮に対抗するために作られた神策軍は宦官の勢力下に入り、朝廷における宦官の権力が増大しました。

元和3年（808年）の科挙進士科に合格した牛僧孺、皇甫湜（こうほしょく）、李宗閔の3名が、当時の政治を批判する論策を提出し、これが憲宗に受け入れられましたが、宰相の李吉甫と宦官が憲宗に訴え、逆に牛僧孺らは地方に追いやられました。李吉甫の死後、宰相となった裴度（はいど）は、藩鎮との妥協を唱える李逢吉（りほうきつ）と対立し、李逢吉は宰相の座を追われました。

憲宗が宦官によって暗殺され、穆宗（ぼくそう）が擁立されると、牛僧孺は中央政界に進出し、李宗閔も監察御史となります。一方、李吉甫の子である李徳裕も翰林学士となりました。

李徳裕は、父が牛僧孺らに攻撃されたことを恨んでおり、長慶元年（821年）に李宗閔の科挙不正を攻撃し、地方に追いやりました。これ以降、40年にわたる牛李の党争が繰り広げられることになります。

党争の激化と終結

その後、李逢吉が宰相に復帰すると、裴度と李徳裕は地方に転出させられ、代わりに牛僧孺が宰相となります。敬宗（けいそう）の時代になると、牛僧孺は地方の節度使として赴任しました。文宗（ぶんそう）の時代には、裴度が宰相に復帰し、李徳裕を中央に呼び戻そうとしましたが、李宗閔の反対により実現しませんでした。

維州事件をきっかけに、李徳裕が宰相に返り咲くと、李宗閔ら牛派を朝廷から一掃しますが、すぐに李宗閔が復帰し、李徳裕は宰相を追われます。党争に嫌気が差した文宗は、中立派の李訓（りくん）や鄭注（ていちゅう）を重用し、牛派・李派双方を朝廷から追い出しました。

しかし、李訓と鄭注が宦官勢力を滅ぼそうとした甘露の変が失敗に終わり、宦官の勢力が増大すると、文宗は宦官に完全に掌握されるようになります。武宗（ぶそう）の時代には、李徳裕が宰相となり、牛派を地方に追いやりました。また、会昌の廃仏を主導し、進士派が党を作る温床となっていた「呈榜・曲江宴」を廃止しました。

宣宗（せんそう）が即位すると、李徳裕は再び地方に送られ、代わりに牛派の白敏中（はくびんちゅう）が宰相となります。その後、牛僧孺と李徳裕が相次いで死去し、ここに党争は終結しました。

党争の影響と評価

牛李の党争は、唐王朝の政治を混乱させ、官僚と宦官の対立を激化させました。また、政策が党派によって左右され、国政に大きな悪影響を与えました。この党争は、唐王朝の衰退を加速させた要因の一つとして評価されています。

歴史学の研究では、牛李の党争を単なる権力争いと見るだけでなく、新興勢力と旧来の貴族勢力の対立、科挙出身者と門閥貴族の対立など、様々な視点から分析されています。党争が唐王朝に与えた影響については、現在も様々な議論が続いています。

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