藩鎮

藩鎮（はんちん）とは

藩鎮とは、中国の唐代から五代にかけて存在した地方軍事組織の名称です。節度使や観察使といった官職を頂点とし、地方の軍事と財政を統括しました。特に節度使は、その軍事力と財政力を背景に、中央政府に対して独立的な動きを見せることもありました。

藩鎮の歴史

安史の乱以前

唐は、太宗の時代に広大な領土を獲得し、都護府、羈縻政策、府兵制、鎮兵といった制度を用いて統治していました。鎮兵には異民族出身の将兵が多く用いられ、主に西北方面の辺境防衛に当たっていました。しかし、玄宗の時代になると、従来の府兵制が機能しなくなり、辺境以外の地域にも藩鎮が設置されるようになりました。

府兵制が行き詰まった背景には、兵士の負担増大がありました。府兵制は、農民が兵役を兼ねる制度でしたが、農閑期である年間3ヶ月の軍事訓練が農作業に大きな支障をきたし、また、故郷や家族を離れて任務に就くため、兵士の士気が低下しました。また、辺境勤務を嫌い、兵役を拒否する者や、逃亡して貴族の奴婢となる者も現れました。このような状況下で、節度使は駐屯軍の将軍と地方の財政官を兼ねるようになり、任地の税収を軍の糧秣や兵士の雇用に充てる制度が生まれました。当初は異民族対策のため、西北方面を中心に10の節度使が設けられました。

710年には河西節度使が設置され、以降、10の節度使が設置されました。駐屯する兵士は、徴兵制ではなく、募兵制である長征健児制によって集められました。兵士は辺境で屯田を行い、国家から給料として絹や銅銭を支給されました。

節度使は、長城外節度使（安西、北庭、平盧など）と長城内節度使に分けられました。長城外節度使には武人や異民族出身の将軍が任じられ、長城内節度使には中央から派遣された文官が任じられるのが当初の方針でした。節度使は、宰相に登るためのエリートコースとされていましたが、玄宗に重用された宰相の李林甫は、政敵の出現を恐れて、宰相になれない異民族出身の将軍を積極的に節度使に登用しました。安禄山もその一人で、玄宗の寵愛を受け、742年に平盧節度使となり、さらに范陽と河東の節度使も兼任しました。

安史の乱

三節度使を兼任した安禄山の総兵力は約18万であり、首都長安を防衛する左右羽林軍の6万を大きく上回っていました。安禄山は、楊貴妃の一族である楊国忠と玄宗の寵愛を争いましたが、常に玄宗の傍にいる楊国忠が有利でした。安禄山は、自らの地位を失うことを恐れ、755年についに反乱を起こしました（安史の乱）。

安禄山が長安を占拠し、玄宗は蜀に逃亡しました。皇太子の李亨が皇帝に即位し粛宗となりました。その後、反乱軍側の内部分裂、勤皇軍の奮戦、ウイグルの援軍などにより、763年に反乱は鎮圧されました。

しかし、安史軍の根拠地であった河北には、投降した魏博、幽州、恒冀などの降伏者をそのまま節度使として任命しました。これにより、内地にも次々と藩鎮が設置され、その総数は50を超えました。首都長安や副都洛陽の周辺部を除く多くの地域が藩鎮の統治下に置かれることになりました。これらの藩鎮は、軍事権と財政権を兼ね備えており、中には反中央的な動きを見せる藩鎮もありました。特に旧安史軍の三将は、河朔三鎮と呼ばれ、中央政府から遊離した勢力となりました。

唐朝が滅亡した後も唐の正朔を奉じ続けた淮南節度使（呉）のように生産力・経済力のある江南地域は朝廷に対して恭順でしたが、河北は旧安史軍の根拠地だったこともあり、中央から遊離して割拠する傾向が強く、中央に税を納めずに藩鎮を運営していました。

代宗・徳宗期

代宗の時代には、藩鎮に対して強い態度を取りませんでしたが、代宗を継いだ徳宗は、藩鎮の抑圧を目標としました。両税法により、藩鎮の財政運営に制限を加え、また、成徳の李宝臣が死去した際には、子の李惟岳による世襲を認めませんでした。これに反発した成徳、天雄、平盧、山南東道が連合して乱を起こしましたが、徳宗は禁軍や他の藩鎮軍を動員して討伐を行い、梁崇義を滅ぼし、李惟岳を捕らえました。

徳宗の強硬姿勢を見た他の藩鎮は、自らの地位を失うことを恐れ、初めは官軍に与していた盧龍軍なども離反しました。783年には乱が起こり、元幽州節度使の朱泚を擁立して長安を占拠しました。徳宗は奉天に逃れました。

徳宗は事態収拾のため、藩鎮側の地位を保全して罪を赦し、疲弊した藩鎮の多くはこれを受け入れました。残る盧龍軍や淮南西道、長安を占拠した朱泚軍も786年に鎮圧しました。799年には、淮南西道の呉少誠が乱を起こしましたが、1年余りの戦いの後、罪を赦され、乱は収束しました。

憲宗期

徳宗の後を継いだ順宗は在位半年で死去し、憲宗が即位しました。憲宗は即位早々、西川節度使の劉闢が勢力拡大のため東川を攻撃したことをきっかけに、藩鎮の討伐を開始しました。劉闢を捕らえて処刑した後、夏綏節度留後の楊恵琳、浙江西道の鎮海軍節度使の李錡を討伐しました。さらに、河朔三鎮の討伐も目指しましたが、失敗に終わりました。しかし、淮南西道の呉元済は滅ぼしました。

憲宗の強硬な対応に対して、藩鎮側も朝廷に恭順な態度を取るようになり、平盧の李師道や成徳の王承宗は自ら領地の一部を返還しました。横海軍の程権は、領地全てを返還し、藩の歴史を自ら終えました。さらに、平盧の返還が遅れたことを理由に攻撃を行い、取り潰しました。河朔型藩鎮として長く続いた平盧が取り潰されたことで、魏博の田弘正は藩帥の職を返還して入朝しました。憲宗は820年に宦官によって殺害されましたが、その後、成徳や盧龍も朝廷に藩帥の職を返還したため、河朔三鎮による独自の藩帥継承は終わりました。

黄巣の乱まで

三鎮の旧武将が再び藩鎮の実権を握り、藩帥の官職を求めると、朝廷はやむなく認めました。これに呼応して、他の藩鎮でも再び中央から遊離する動きが出ましたが、朝廷は断固たる態度で臨み、許しませんでした。

河朔型藩鎮による動乱は度々起きましたが、この内朝廷に対する反乱は20%程度で、残りの8割は兵士の暴動、将校による策動、部下による藩帥の殺害でした。これらの兵士は驕兵悍将と呼ばれ、十分な恩賞が約束されなければ戦おうとせず、藩帥も彼らの意を迎えるのに苦労しました。

唐滅亡から五代

唐は黄巣の乱によって致命傷を受け、実質上滅亡しました。朝廷の権威が衰え、天下は再び朱全忠や李克用らの藩鎮勢力が争う時代となりました。

907年、朱全忠によって禅譲劇が行われ、唐は名実ともに滅亡し、五代十国時代に入りました。

北宋の太祖趙匡胤も、後周の節度使でしたが、後周皇帝から禅譲を受けて建国しました。趙匡胤は、前轍を踏まぬよう、宴席で酒を飲みながら部下の節度使に引退を勧め、加えて新たに通判の職を置いて節度使の行政権を移管し、最終的に節度使を名誉職とすることに成功しました。

まとめ

藩鎮は、唐代から五代にかけて中国に存在した地方軍事組織であり、その興隆と衰退は、中国史における重要な出来事の一つです。藩鎮は、地方の軍事と財政を掌握し、時には中央政府に対して独立的な動きを見せることもありましたが、最終的には中央政府によって解体され、その役割を終えました。

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