牧 (古代)

牧（まき）とは

牧とは、馬や牛などの家畜を放し飼いにして飼育する土地や施設、つまり牧場のことを指します。日本では、古くから家畜の飼育が行われてきましたが、特に馬の飼育は、軍事や交通の面で重要な役割を果たしてきました。

牧の歴史

古墳時代から律令制時代

日本における牧の始まりは、古墳時代に遡ると考えられています。乗馬の導入とともに、馬の飼育が始まり、畿内周辺から各地の豪族によって広められました。特に東国は、馬の特産地として知られるようになります。

大化の改新（645年）以降、牧は律令制のもとで整備が進められました。『日本書紀』には、668年に「牧を多く置き、馬を放つ」という記述があり、この頃には国家的な牧の経営が行われていたことがわかります。

700年には、文武天皇の勅により、全国に牧地が定められ、牛馬の放牧が奨励されました。令制においては、「厩牧令」や「厩庫律」によって牧の制度が規定され、全国の牧は兵部省の管轄下で運営されました。牧では、軍団用の馬の供給や、駅馬・伝馬、農耕用の牛などが飼育されました。707年には、鉄印が支給され、子牛に焼印を押す制度が導入されたことから、多くの国で官牧が設置されていたことがわかります。

平安時代

8世紀末、平安時代初期になると、軍団制の崩壊とともに、牧は中央へ貢上する馬の育成場として再編されました。新たに勅旨牧（御牧）が発展し、これは内厩寮が管理しました。甲斐国、武蔵国、信濃国、上野国の4か国に32の牧が設置され、毎年240頭の馬が貢上されました。これらの牧には、牧監や別当が任命され、中央政府の直轄体制が強化されました。

牧の種類

牧は、大きく分けて以下の3種類がありました。

諸国牧（官牧）: 兵部省管轄下の牧で、軍馬の供給を主な目的としていました。
勅旨牧（御牧）: 中央政府直轄の牧で、主に天皇の儀式や行幸に用いる馬を飼育しました。
近都牧（寮牧）: 畿内近国に設置された牧で、貢上された牛馬を飼育し、必要に応じて京に牽進しました。

これらの他に、摂関家などの貴族や寺社が経営する私牧も存在しました。牧は徐々に荘園の一種と化し、中には耕地化されたものもあったようです。

牧の役割

牧は、単に家畜を飼育するだけでなく、以下のような役割を担っていました。

軍馬の供給: 軍事力にとって不可欠な軍馬を育成・供給しました。
交通手段の提供: 駅馬や伝馬として、人や物資の輸送に貢献しました。
農耕用牛の供給: 農耕に必要な牛を供給しました。
* 乳製品の生産: 牛乳や乳製品を生産し、食料資源として貢献しました。

その後

牧は、武士階級が台頭する一因ともなり、鎌倉時代には、軍事・運輸上の必要性から各地の牧が再び盛んになりました。さらに、江戸時代の牧の土台ともなっていきました。

まとめ

牧は、古代から近世にかけて、日本の社会や経済に大きな影響を与えた重要な施設でした。単なる家畜の飼育場ではなく、軍事、交通、農業、食料など、多岐にわたる分野で重要な役割を果たしました。牧の歴史を辿ることで、日本の歴史の一側面をより深く理解することができるでしょう。

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