狩野典信

狩野典信：江戸狩野派の再興を担った絵師

狩野典信は、江戸時代中期を代表する絵師の一人です。享保15年(1730年)に生まれ、寛政2年(1790年)に没しました。狩野派6代目として、江戸狩野の隆盛に大きく貢献した人物であり、その生涯と作品は、江戸時代の美術史において重要な位置を占めています。

幼少期と将軍への謁見

典信は、幼名を庄三郎といい、栄川、栄川院、白玉斎といった号を用いました。2歳の時に父である狩野古信と共に浜町狩野家から養子入りしますが、養父である受川玄信を早くに亡くし、以降は母である妙性尼に育てられました。妙性尼は水戸藩家臣の娘であり、典信の幼少期には、その公務を代わりに勤めていたと伝えられています。

12歳になった寛保元年(1741年)には、岡本善悦の仲介により将軍徳川吉宗に謁見し、自ら描いた画巻を献上しました。吉宗は典信の才能を高く評価し、「栄川幼しといえども、はや衆人を越たり」と絶賛。さらに、狩野探幽を超えるためには探幽が学んだ古画を学ぶべきだと助言しました。この出来事は、典信の将来を決定づける重要な出来事となりました。

奥絵師としての活躍と庇護

宝暦12年(1762年)、典信は33歳で法眼中務卿となり、翌年には奥絵師に任ぜられました。安永2年(1773年)には表御医師並200石取となり、竹川町家は典信の代で初めて奥絵師を輩出することとなります。絵を愛好した徳川家治の寵愛を受け、その子である惟信や中橋狩野家の永徳高信と共に、家治の傍らに仕えました。

安永6年(1777年)には、従来の竹川町の屋敷に加え、木挽町に新たな屋敷を拝領します。この出来事を境に、狩野尚信の家系は「木挽町狩野家」と呼ばれるようになりました。この木挽町の屋敷は、田沼意次の旧邸の一部であり、典信と意次は裏門を通じて親しく交流したという伝承が残っています。しかし、『よしの冊子』には、典信が松平定信とも親しかったことが記されており、典信の交友関係の広さを物語っています。

新たな屋敷には、他の狩野家よりも大規模な画塾が設けられ、常に50～60人の生徒が学んでいました。安永9年(1780年)には法印となり、栄川院と名乗るようになりました。同年には、日蓮五百遠忌と母への報恩を込めて「日蓮聖人縁起絵巻」を池上本門寺に奉納しました（戦災で消失）。

晩年と死

寛政2年(1790年)、典信は新造御所の障壁画制作を主導していましたが、賢聖障子の下絵を完成させた直後に亡くなりました。この賢聖障子絵は、典信と住吉廣行の合作として記録に残っています。典信の墓所は池上本門寺にあり、法名は法壽院殿典信日妙大居士です。池上本門寺に残る顕彰筆塚には、典信の寡黙で真面目、清廉な人柄が記されています。

狩野派の変革への貢献

18世紀半ば、南蘋派の流入を機に民間画壇が発展し始めると、狩野派は顧客を失いつつありました。典信は、この危機を打破するため、漢画の力強い描線を復活させることで狩野派の再建を目指しました。この試みは将軍の好みにも合致し、典信が寵愛された理由の一つと考えられます。典信の試みは完全に成功したとは言えませんが、その意欲と功績は後の木挽町家の絵師たちに受け継がれ、木挽町家は幕末まで奥絵師四家の中で最も繁栄しました。

代表作と弟子たち

典信は多くの作品を残しましたが、詳細な作品リストは現時点では不明です。彼の門下からは、鈴木鄰松、狩野如水由信、鳥文斎栄之といった著名な画家が輩出しました。また、狩野白珪斎という弟子がおり、その弟子が渓斎英泉であったとも言われています。

参考文献

山下裕二監修 安村敏信 山本英男 山下善也筆 『狩野派決定版』 平凡社〈別冊太陽 日本のこころ131〉、2004年
安村敏信 『もっと知りたい狩野派 探幽と江戸狩野派』 東京美術〈アートビギナーズ・コレクション〉、2006年
徳島市立徳島城博物館編集・発行 『狩野栄川院と徳島藩の画人たち』 2013年10月
その他、複数の論文や資料。

狩野典信は、江戸時代の美術史において重要な人物であり、その生涯と作品は、後の日本の絵画に大きな影響を与えました。彼の功績は、現代においても高く評価されています。

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