猪子兵助

猪子兵助：織田信長の影の立役者

猪子兵助（いのこ ひょうすけ）は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将です。諱は高就（たかなり）と伝えられていますが、『寛政重修諸家譜』には一俊（かずとし）と記されています。

謎に包まれた出自と信長への仕官

猪子兵助の出自については諸説ありますが、猪子久左衛門の子であり、猪子一時は兄にあたると考えられています。若き日の記録として、『信長公記』には斎藤道三の家臣として登場し、天文22年（1553年）の正徳寺での会見において、道三に織田信長についての意見を求められた際、「上総介はたわけにて候」と発言したと記されています。しかし、この記述は生年的に矛盾が生じるため、父を兵助（兵介）とする説や、信清に仕え犬山城で戦死した人物を父とする説も存在しますが、いずれも確定的なものではありません。信長に仕官した時期は不明ですが、永禄年間にはすでに信長の家臣として活動していたと考えられています。

信長側近としての活躍

元亀2年（1571年）には、信長の近習として逃亡中の高木貞久の家臣の追及や、水谷新兵門の誅殺を命じられるなど、重要な任務を任されていました。『甫庵信長記』には、同年8月20日の江北の木本からの退却において、殿軍を務めた柴田勝家の様子を信長に報告した軍使を務めたとあります。天正4年（1574年）には河内天王寺での籠城戦、天正7年（1579年）には播磨三木表に検使として派遣されるなど、その活動範囲は広範囲に渡ります。

猪子兵助は、信長配下の軍団長格の武将との連絡役としても重要な役割を果たしており、吉田兼見（兼和）とも頻繁に贈答品を交換するなど、その人脈の広さと影響力の大きさがうかがえます。天正8年（1580年）には、福富秀勝と共に高天神城攻め中の徳川家康を陣中見舞いし、同年には豊薩和睦の使者として下向した前関白近衛前久のもとにも派遣されています。天正9年（1581年）には、矢部家定と共に山城国勝竜寺城に入り、細川藤孝の丹後国の旧知行を検分するなど、家定と共同で数々の任務をこなしています。同年9月8日には、信長から近江北郡内の知行を宛がわれています。

本能寺の変と最期

天正10年（1582年）、本能寺の変が勃発すると、猪子兵助は二条新御所の織田信忠のもとに駆けつけ、明智勢と戦って討死しました。しかし、『宇野主水日記』には、京都で追腹をしたという記述もあり、その最期については諸説が残されています。

歴史における評価

猪子兵助は、史料に多く登場するわけではないものの、織田信長の側近として重要な役割を果たした武将であることは間違いありません。信長配下の武将たちとの連絡役を務め、重要な外交的任務にも携わった彼の存在は、信長の天下統一事業に貢献したと言えるでしょう。その生涯は謎の部分も多いですが、残された記録を丁寧に読み解くことで、戦国時代の混沌とした状況下で活躍した、一人の武将像を浮かび上がらせることができます。彼に関するさらなる研究が、今後の歴史研究に期待されます。

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