獺祭 (日本酒)

獺祭（だっさい）

山口県岩国市に蔵を構える旭酒造によって醸造・販売される日本酒の代表的な銘柄です。特に、原料米に酒米の王様とも称される山田錦のみを使用し、高精米に徹した純米大吟醸酒として国内外で高い評価を得ています。

概要と歴史

旭酒造はかつて、一般的な普通酒である「旭富士」を主力製品としていました。しかし、時代の変化とともに高品質な日本酒への需要が高まる中、1990年に東京へ本格的に販路を拡大するにあたり、新たな柱となる銘柄として「獺祭」が誕生しました。旭酒造は「酔うため、売るための酒ではなく、味わう酒を求めて」という理念のもと、徹底した品質主義を追求。その象徴ともいえるのが、米を極限まで磨き上げる「精米歩合」へのこだわりです。1992年には、当時としては画期的な精米歩合23%を実現した「獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分」を発売し、日本酒業界に大きなインパクトを与えました。その後も、さらなる高みを追求した「獺祭 磨き その先へ」が2012年に登場。普及価格帯の製品についても品質向上に努め、2019年4月には従来の精米歩合50%から45%へと引き上げた「獺祭 純米大吟醸45」をリリースするなど、常に進化を続けています。ラベルに記された「獺祭」の文字は、地元山口県出身の書道家、山本一遊氏によって揮毫されたものです。

名称の由来

「獺祭」という特徴的な名称は、旭酒造の三代目当主である桜井博志氏によって名付けられました。その由来は二つあるとされています。一つは、蔵の所在地である岩国市周東町にある「獺越（おそごえ）」という地名にちなんだものです。もう一つは、明治時代に俳句や短歌の世界に革新をもたらした俳人、正岡子規が用いた俳号の一つ「獺祭書屋主人（だっさいしょおくしゅじん）」に由来します。子規は、多くの書物を机に広げて思索にふける自身の姿を、カワウソが捕らえた魚を岸に並べる習性である「獺祭魚（だっさいぎょ）」になぞらえてこの俳号を用いたと言われています。旭酒造は、正岡子規が既存の枠にとらわれず新たな表現を追求したように、「獺祭」もまた進取の精神をもって質の高い酒造りを目指すという決意を込めてこの名を冠しました。命名者の桜井氏が、かつてスピード違反で取り締まられた際に白バイ隊員に地名「獺越」の読み方を尋ねられたというエピソードも、この「獺」の字を銘柄に使うきっかけの一つになったと語られています。

国際的な評価と展開

「獺祭」は、その優れた品質から国内外で高い評価を得ています。特に、日本の外交の場においても重要な役割を果たしています。内閣総理大臣（当時）の安倍晋三氏は、2013年にロシア連邦大統領のウラジーミル・プーチン氏に、2014年にはアメリカ合衆国大統領（当時）のバラク・オバマ氏に獺祭を贈呈しました。特にオバマ氏に贈られた獺祭は、ユダヤ教の戒律に則って生産されたことを証明する「コーシャ認証」を受けた日本酒の第一号となりました。また、2023年4月には外務大臣（当時）の林芳正氏が、長野県軽井沢町で開催されたG7外相会合の夕食会で獺祭を振る舞い、各国の外相に日本の食文化の豊かさをアピールしました。

数々の国際的なコンクールでも受賞を重ねており、モンドセレクションでは2002年に「磨き二割三分」が金賞を受賞。フランス開催のKura Masterにおいては、2017年に「磨き二割三分」が金賞、2018年には「磨き その先へ」がプラチナ賞、「磨き二割三分 遠心分離」が金賞、2019年・2020年にも「磨き二割三分」や「磨き二割三分 遠心分離」が金賞を受賞するなど、高い評価を受けています。

また、旭酒造は海外での酒造りにも挑戦しており、アメリカ合衆国ニューヨーク州に建設した酒蔵「DASSAI BLUE SAKE BREWERY」で「DASSAI BLUE」という姉妹ブランドの製造・販売を開始しました。この名称は、「青は藍より出でて藍より青し」ということわざに由来し、日本で培った技術を異国の地でさらに発展させたいという思いが込められています。ラインナップは「タイプ50」「タイプ35」「タイプ23」の3種類で、2023年9月からニューヨーク州内で販売されています。現地ニューヨーク州の水を使用し、アメリカ在住者の嗜好に合わせてアルコール度数をやや低めに調整するなど、ローカライズを図っています。当初は日本産の山田錦を使用していますが、将来的にはアーカンソー州産の山田錦など、全量アメリカ産の酒米への切り替えを目指しており、本格的な現地生産体制を構築しています。

文化的影響

「獺祭」は、その知名度と品質の高さから様々な作品にも登場しています。例えば、映画『キューティーハニー』、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズ（『序』『破』）や、テレビアニメ『鹿楓堂よついろ日和』、『たくのみ。』などに描かれ、多くの人々にその存在を知られるきっかけとなりました。また、アイドルグループBANZAI JAPANのメンバーである藤崎ふみ氏は、旭酒造公認の「獺祭お姉さん」として、獺祭のプロモーション活動を行っています。

関連情報

• - 関連書籍:

- 弘兼憲史『「獺祭」の挑戦 山奥から世界へ』サンマーク出版、2020年
- 勝谷誠彦『獺祭 天翔ける日の本の酒』西日本出版社、2014年（改題『獺祭 この国を動かした酒』扶桑社新書、2016年）

• - 外部リンク:

- 獺祭 公式Xアカウント (@dassaisake)

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