玉井浅一

玉井浅一：海軍軍人、そして僧侶へ

玉井浅一（たまい あさいち）は、1902年12月25日に愛媛県で生まれ、1964年12月10日に亡くなった、日本の海軍軍人です。海軍兵学校を卒業後、航空隊で多くの経験を積み、最終階級は海軍大佐でした。

軍人としてのキャリア

松山中学を卒業後、1921年に海軍兵学校に入学し、1924年に卒業しました。その後、海軍少尉に任官し、航空隊でのキャリアをスタートさせます。1929年には飛行学生を卒業し、大村航空隊に配属。空母「赤城」や「加賀」にも乗組員として勤務しました。1934年からは分隊長、飛行隊長を歴任し、太平洋戦争開戦時には筑波航空隊の飛行長を務めていました。

太平洋戦争と特攻隊

1942年、第六航空隊飛行長に就任。その後、第二〇四海軍航空隊副長、飛行長を経て、1943年には第二六三海軍航空隊司令に着任しました。1944年、第一航空艦隊第二〇一海軍航空隊副長となります。この頃、零戦を爆撃機として運用する訓練を行っており、爆戦による攻撃に自信を持っていました。しかし、訓練は計画通りには進まず、反跳爆撃に攻撃方法を変更しています。

ダバオ誤報事件と玉井の活躍

1944年9月、一航艦がダバオから退避した「ダバオ誤報事件」が発生。アメリカ軍上陸の誤報を疑った玉井は、自ら偵察飛行を行い、誤報であることを突き止めました。そして、混乱する司令部に苦言を呈し、自ら状況を判断する重要性を説いています。

神風特別攻撃隊の編成

1944年10月、一航艦長官に内定した大西瀧治郎中将が、特攻隊編成に関する会議を行うために第二〇一海軍航空隊本部を訪れます。この会議で、玉井は特攻隊の編成を一任され、自ら特攻隊員を募りました。当初は、熟練の搭乗員であった菅野直大尉を特攻隊長に考えていましたが、菅野が不在だったため、代わりに菅野の同期である関行男大尉を推薦。関は特攻隊長を引き受け、敷島隊を率いて出撃しました。この時、玉井は特攻隊員たちに「必ず俺たちも後に続く」と約束しましたが、その言葉は、戦後まで玉井の心に重くのしかかることになります。

特攻隊員への思い

玉井は、特攻隊員に厳格な態度を見せながらも、彼らのことを深く気遣っていました。特攻隊員が死んでいく状況に、時には厳しい態度をとることもありましたが、一方で、出撃前の特攻隊員に酒を振る舞ったり、慰安所に連れて行ったりすることも黙認していました。また、特攻で戦死した隊員のことを新聞記事にするように報道班員に頼んだり、特攻隊員に「お前たちだけを殺すようなことはしない。必ず俺たちも後に続く」と声をかけたりしていました。

終戦とその後

1945年1月、玉井は第二〇一海軍航空隊司令に昇進。その後、台湾に転進し、第二〇五海軍航空隊の司令となります。ここでも特攻の指揮を執り、多くの特攻隊員を失いました。終戦を迎え、玉井は1946年に予備役編入となります。戦後、多くの特攻に関わった将官・高級士官が自決する中、玉井は生き残った者としての務めを果たそうと模索しました。復員業務に従事した後、職を転々とし、経済的に苦しい生活を送りました。

僧侶への転身

1958年、玉井は僧侶となり、日蓮宗瑞応寺の住職（法名・日覚）となりました。それは、戦場で殺した部下の霊を弔い、自らが特攻を命じた部下の冥福を祈るためでした。毎日、水垢離の修行を行い、特攻で亡くなった隊員たちの名前を読み上げ、その霊を慰め続けました。しかし、かつての部下からは「仏門に入るなんて卑怯だ」と批判されることもありました。

最期

1964年12月10日、玉井は水垢離の後に心臓発作で亡くなりました。享年61歳でした。娘は、玉井の生涯を「生きているべきではなかった」と厳しく評する一方で、「仏門に入れたことで、少しでも救われたのではないか」と語っています。玉井の生涯は、戦争の悲劇と、その中で生きた人々の複雑な感情を物語っています。

玉井浅一は、特攻隊の指揮官として、多くの若者を死に追いやったという重い十字架を背負いながらも、その責任と向き合い続けた人物でした。軍人として、そして僧侶として生きた彼の生涯は、戦争の残酷さと、その中で人はどのように生きるべきかという問いを私たちに投げかけます。

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