玉利喜造

玉利喜造（たまり きぞう）は、江戸時代末期の安政3年（1856年）5月28日に生まれ、昭和6年（1931年）4月21日に80歳で没した日本の農学者であり、晩年は貴族院勅選議員も務めた人物です。現在の鹿児島県の出身です。

明治13年（1880年）に当時、日本の近代農業教育を牽引していた駒場農学校を卒業後、農務局で編集業務に携わった後、母校である駒場農学校の助教授として教壇に立ちました。

明治18年（1885年）からは2年間にわたり、アメリカ合衆国への留学を経験しました。ミシガン州立農学校やイリノイ州立大学で最新の農業知識や技術を学び、見聞を広げました。

帰国後の明治20年（1887年）からは、教育者としての道を本格的に歩み始めます。東京農林学校の教授を務めた後、帝国大学農科大学に移り、助教授、そして教授へと昇進しました。日本の最高学府において、農学の発展と後進の育成に貢献しました。明治32年（1899年）にはその功績が認められ、農学博士の学位を授与されています。

教育行政にも深く関わりました。明治36年（1903年）には東北地方における高等農林教育の拠点である盛岡高等農林学校の校長に就任し、学校経営の責任者として辣腕を振るいました。さらに明治42年（1909年）には、自身の出身地に近い鹿児島高等農林学校の校長へと転任し、南九州における農業教育の振興に尽力しました。大正11年（1922年）には鹿児島高等農林学校の名誉教授の称号を得ています。

公的な分野での活躍も顕著です。大正11年（1922年）2月2日には、長年の農学分野での貢献と人格が評価され、貴族院議員に勅選されました。議員としては、農政に関する提言や法案審議などに参加し、国政の場から日本の農業発展を支えました。その任期中の昭和6年（1931年）4月に逝去しました。

この間、学術・産業団体においても重要な役割を果たしました。大日本農会では幹事、参事、常設議員などを、帝国農会では特別議員や顧問などを歴任し、民間および官製の両面から日本の農業振興に指導的な立場で関わりました。

栄典としては、大正9年（1920年）4月10日に従三位に叙せられています。

研究成果や思想は多岐にわたる著書として発表されています。主な著書には、農業計算の手引きである『農家速算』（明治16年/1883年）、養蜂技術の改良に関する『養蜂改良説』（明治22年/1889年）、倫理観を説いた『実用倫理』（明治42年/1909年）、独自の思想書である『内観的研究 邪気・新病理説』（大正元年/1912年）、そして人間の進化に関する思索をまとめた『内観的人類進化説』（大正3年/1914年）などがあります。これらの著作は、当時の社会における農学、倫理、そして個人の内面への探求といった、幅広い分野への関心を示すものです。

家族構成では、兄に海軍中将となった玉利親賢、弟に東京府の技官を務めた沖一誠がいました。

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