玉木新雌

玉木新雌（たまき にいめ、1978年 - ）は、日本のファッションデザイナーであり、播州織を基盤としたアーティストです。福井県で生まれ育ちましたが、自身の求める理想の布地を探し求める旅の中で播州織と巡り合い、その技術に魅せられて兵庫県西脇市へと活動拠点を移しました。地場産業としての播州織を独自にアレンジし、「新たな播州織」の創造に取り組んでいます。

幼少期から、両親が営む洋服店の仕入れに同行し、自分で着る服を選んだり、気に入った服とそうでない服のデザインや素材、着心地の違いを細かく分析するなど、衣服に対する強い探求心を持って育ちました。小学生の頃には既に、将来自分の子供に手作りの服を着せたいという夢を抱き、初めての服作りであるエプロン制作では、ポケットのデザインを工夫するなど、オリジナリティを追求する喜びを知ります。この頃から、肌触りや着心地の良いものを好む傾向が芽生えていました。中学生になる頃には既製服では満足できず、パターンに興味を持ち服作りを始めています。

武庫川女子大学で生活環境学を学んだ後、服飾専門学校ESMOD JAPONでファッションの知識を深めました。卒業後は大阪の繊維専門商社でパタンナーとしてキャリアをスタートさせますが、仕事内容に物足りなさを感じ、約2年で独立します。理想の布地を探求する過程で、精緻な技術を持つ播州織に出会いました。自身の故郷である福井県も織物が盛んでしたが、すでに素材が絹から化学繊維に移行し、後染めが主流となっていたため、自身の創作イメージとは合致せず、播州織アーティストとして活動することを決意します。玉木にとって、播州織の最大の魅力は、大量の白生地に後からプリントするのではなく、先に染められた経糸と緯糸が織り合わさることで生まれる、多様で奥行きのある表情でした。この可能性に強く惹かれたのです。

当初は大阪を拠点に活動し、自身のデザインを西脇の職人に依頼して織ってもらい、大阪で販売するという形を約3年間続けました。しかし、西脇に直営店を出店したことを機に移住を決意し、やがて自ら織機を操作するようになります。玉木が西脇に移り住んだ頃、播州織は主にシャツ生地の大量生産が主流となっており、産地全体に停滞感が漂っていました。独立当初は玉木自身もシャツ生地を生産していましたが、ある時、偶然にも縫製が難しいほどの非常に柔らかい生地が織り上がり、試しに首に巻いてみたところ、その心地よさに感動します。これが、綿菓子のようにふんわりと柔らかな感触で知られる代表作「ショール」誕生のきっかけとなりました。性別、年齢、国籍を問わず、誰もが愛用できる独創的なショールをコンセプトに開発を継続。特に、1965年製のベルト式力織機を導入し、自らの手で織り上げる「only one shawl」は、最新機械では表現できない独特の織り柄の立体感が高く評価され、人気商品となりました。現在はショールを中心に、シャツ、パンツ、子供服、バッグなど、幅広いアイテムを手掛けています。

作品は全国各地のセレクトショップや百貨店で販売され、展示会も開催されています。また、海外での評価も非常に高く、2017年3月時点でアメリカ、カナダ、イギリス、ベルギー、台湾など世界15ヶ国、200店舗以上で取り扱われています。玉木新雌の活動は、地場産業であった播州織を世界的なブランドへと引き上げる大きな力となりました。代表的なショールは、経済産業省の「ザ・ワンダー500」にも選定されています。さらに、2015年には「はなやか関西セレクション 2016」および「ひょうご女性未来・縹（はなだ賞）」を受賞するなど、多方面で功績が認められています。玉木新雌の活動に触発され、西脇市は全国から若手デザイナーや研修生を受け入れるなど、地域活性化にも貢献しています。

玉木新雌のモノづくりの探求はとどまるところを知りません。偶然の出会いから始まった織機操作は、オンリーワンの作品を目指す中で、糸染め、縫製、加工までの一貫した生産体制へと発展しました。古いシャトル織機や糸染め機、整経機に加え、多色の糸をつなぎ合わせて虹のようなグラデーションを生み出すアレンジワインダー、無縫製で編める最新鋭のホールガーメント編み機など、様々な機械を備えた自身のLabで創作を行っています。播州織の高い技術を活かしつつ、歴史や既成概念にとらわれず、常にどうすれば面白いモノづくりができるかを考え続けています。徹底した消費者目線を持ち、展示商品を頻繁に入れ替えたり、織機が稼働する工房を一般公開するなど、様々な工夫を凝らしています。

玉木新雌は、自身の生き方の根本は一貫していると語り、座右の銘として論語の「わが道　一を以って之を貫く」を挙げています。2014年からは、工房のある比延町をコットンの町にしたいという夢を抱き、耕作放棄地を借りて社員と共にオーガニックコットンの栽培に取り組んでいます。また、綿の種子を配布し、収穫した綿を買い取ることで、播州織生産の全工程を純国産化する試みも始めています。2017年頃からは、ビジネスの拡大に伴う大量生産・大量消費、地球環境問題などに関心を向け、ヨガとの出会いをきっかけにヴィーガンにも興味を持ち、菜食主義者となりました。自ら栽培した野菜を来訪者と共有するなど、食を通じた取り組みも行っています。

玉木新雌が立ち上げたブランド「tamaki niime」は、かつてアパレルメーカー向け生地生産が主だった播州織産地に大きな影響を与えました。「tamaki niime」に触発され、播州織を使った服飾やテキスタイルのブランドを立ち上げる動きが相次ぎ、2018年9月現在では30を超えるまで急増しました。中には海外展開するブランドも現れており、播州織ファンが産地を訪れる現象も生まれています。玉木新雌という「新しい女性像」を提案するデザイナーは、その創作活動を通じて、播州織の可能性を切り拓き、産地全体に新たな活気をもたらしています。

ブランド名である「新雌」には、「新しい女性像を提案したい」というデザイナー自身の想いが込められています。2004年12月にブランド「tamaki niime」を立ち上げ、2006年4月には有限会社玉木新雌を設立。2008年4月には西脇市に直営店をオープンし、2009年5月には西脇市へ移住しました。2016年9月には、西脇市比延町の岡之山麓に、古い染工場をリノベーションした広大な新Lab&Shopを移転オープン。「作り手と買い手がつながるスペース」を目指し、ガラス越しに工房の様子が見える構造となっています。これらの活動を通じて、玉木新雌は播州織の伝統に根差しつつ、革新的なアプローチでその魅力を国内外に発信し続けています。

もう一度検索