王梵志

王梵志（おう ぼんし）

王梵志（生没年不詳）は、中国唐代、恐らく8世紀後半に活躍したとされる仏教詩人・詩僧です。衛州黎陽県（えいしゅうれいようけん）の出身と伝えられていますが、その生涯については詳しい記録が残されていません。

人物と詩風

王梵志は、俗語を用いて仏教の教えをわかりやすく説いた教訓詩を数多く残したことで知られています。彼の詩は、仏教の根本的な教理である因果応報や諸行無常を、当時の人々の日常生活に寄り添う形で表現したものでした。そのため、難解な仏教用語を知らない人々にも、その教えが容易に理解できたと考えられています。

王梵志は、特定の寺院に所属していたのではなく、街や村を歩き回りながら人々に説教をする遊化僧（ゆげそう）であったとする説があります。彼の詩には、そのような遊化僧としての視点や経験が反映されているのかもしれません。

古くから、王梵志は伝説的な人物として扱われ、仏教の真理に達した聖人のように考えられていました。

詩集とその伝来

王梵志の詩集は、9世紀には日本に伝来していたことが記録されています。『日本国見在書目録（にほんこくげんざいしょもくろく）』にもその名が記されていますが、残念ながら宋代には散逸してしまいました。

しかし、20世紀初頭に発見された敦煌文献の中に、王梵志の詩の一部が含まれていることが判明しました。これにより、彼の詩が再び日の目を見ることになったのです。

敦煌文献から発見された王梵志の詩は、同じく唐代の詩僧である寒山（かんざん）・拾得（じっとく）の詩と共通するテーマや表現が見られることが指摘されています。彼らの詩は、仏教の教えを日常生活に結びつけて平易に説くという点で共通しており、当時の民衆に広く受け入れられたと考えられています。

校本

王梵志の詩集には、いくつかの校本が存在します。

劉復校録本（1925年）
鄭振鐸校補本（1935年）
張錫厚校輯『王梵志詩校輯』

これらの校本は、敦煌文献から発見された詩を整理し、研究するための重要な資料となっています。

参考文献

王梵志に関する研究は、以下の文献などで確認できます。

入矢義高「王梵志について」（『中国文学報』3・4、1956年）
入矢義高「王梵志詩集攷」（『神田博士還暦記念書誌学論集』、1957年）
遊佐昇「「王梵志詩」のもつ両側面」（『大正大学大学院研究論集』2、1978年）
遊佐昇「敦煌文献にあらわれた童蒙庶民教育倫理：王梵志詩・太公家教等を中心として」（『大正大学大学院研究論集』4、1980年）
蔵中進「中国における王梵志、日本における王梵志」（『新世紀の日中文学関係：その回顧と展望』、2003年）

これらの文献は、王梵志の詩や思想、その歴史的意義を理解するための貴重な手がかりとなります。

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