鄭振鐸

鄭振鐸（てい しんたく）

鄭振鐸は、中華民国から中華人民共和国にかけて活躍した作家、文学研究者、政治家です。字は西諦といい、書斎には「玄覧堂」という号を用いていました。また、幽芳閣主、紉秋館主など、多くの筆名を用いて執筆活動を行いました。祖籍は福建省福州府長楽県です。

生涯

五四運動と新文化運動

1917年、北京鉄路管理伝習所に入学した鄭振鐸は、1919年の五四運動に際して、瞿秋白らとともに雑誌『新社会』を創刊し、新文化運動を積極的に展開しました。また、茅盾らと民衆戯劇社を設立し、月刊誌『戯劇』を創刊するなど、演劇を通じた社会変革も目指しました。1920年には、茅盾、葉聖陶らと文学研究会を発足させ、『文学旬刊』を創刊。これにより、中国の文学界に新たな潮流を生み出しました。

文学活動と教育

1921年に鉄路管理学校を卒業後、鄭振鐸は茅盾の紹介で上海に移り、商務印書館で文学研究叢書の編集を担当しました。1922年には週刊誌『児童世界』を創刊し、児童文学の普及にも貢献。翌年には『小説月報』を創刊し、小説を通じた社会啓蒙にも力を入れました。1925年からは、私立復旦大学、省立曁南大学で講師として教鞭をとり、後進の育成にも努めました。1927年には、上海で作人公会を組織し、文学運動をさらに推進しました。

政治的迫害と海外生活

上海クーデター後、政治的圧迫を受けた鄭振鐸は、パリに一時的に滞在しました。1931年に帰国後は、国立清華大学、私立燕京大学で教授を務めました。また、1933年からは、月刊誌『文学』や季刊誌『文学季刊』の編集にも携わり、文学活動を継続しました。1934年には上海に戻り、曁南大学文学院院長に就任。この時期には、生活書店の『世界文庫』の主編を務め、魯迅との協力で『北平箋譜』を編集するなど、多岐にわたる文化事業に貢献しました。

日中戦争（抗日戦争）下の活動

日中戦争勃発後、鄭振鐸は中国文芸界救亡協会などの抗日組織に属し、抗日言論を展開しました。上海陥落後も鄭敬夫の偽名を用い、胡愈之らと復社を創設し、『魯迅全集』や『レーニン文選』などを刊行し、地下出版活動を通じて抗日運動を支援しました。

戦後の活動と晩年

戦後、鄭振鐸は週刊誌『民主』や『文芸復興』を創刊し、言論活動を再開しました。また、中国民主促進会の発起人として政治活動にも参加しました。国共内戦末期には中国共産党側につき、中華人民共和国成立後は、文化部の要職を歴任し、文化行政に尽力しました。北京大学文学研究所所長や中国科学院考古研究所所長なども務め、学術研究にも貢献しました。1958年、モスクワ訪問中に搭乗していた飛行機が墜落し、61歳でその生涯を閉じました。

著作

鄭振鐸は、文学、歴史、美術など、多岐にわたる分野で著作を残しました。代表的なものとして以下のような作品が挙げられます。

『鄭振鐸文集』
『家庭的故事』
『桂公塘』
『中国文学論集』
『俄国文学史略』
『山中雑記』
『文学大綱』
『泰戈爾伝』
『中国文学史』
『中国通俗文学史』
『中国古代木刻史略』
『蟄居散記』（『書物を焼くの記』）

日本語訳

『書物を焼くの記 日本占領下の上海知識人』（岩波書店、1954年）
『中国俗文学史』（東方書店、2023年）

参考文献

* 徐友春主編『民国人物大辞典 増訂版』河北人民出版社、2007年。ISBN 978-7-202-03014-1。

鄭振鐸は、中国の激動期において、文学、教育、政治の各分野で重要な役割を果たしました。彼の活動は、中国近現代史における知識人の役割を象徴するものとして、今日でも高く評価されています。

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