鄭周永

鄭周永（チョン・ジュヨン）とは

鄭周永（チョン・ジュヨン、정주영、1915年11月25日 - 2001年3月21日）は、韓国の実業家、政治家であり、現代財閥の創業者です。雅号は峨山（アサン、아산）。第14代国会議員も務めました。一代で韓国最大の財閥を築き上げ、その卓越した経営手腕と大胆な行動力で、韓国経済の発展に大きく貢献しました。

生い立ちと初期のキャリア

1915年、現在の北朝鮮にあたる江原道通川郡の貧しい農家に、6男2女の長男として生まれました。幼少期から苦労を重ね、小学校卒業後は家出を繰り返しながら、建設労働者として働きました。1934年には京城（現在のソウル）の米屋に就職し、1938年には自ら米穀商「京一商会」を開業しました。しかし、米が配給制となったため米屋を廃業し、自動車部品修理業へと転換します。この事業が後に日本の企業に合併されたことが、自動車業界との関わりを持つきっかけとなりました。1942年、企業整理令により自動車部品修理業を廃業し、その後は鉱山関連事業に従事しました。この時期には、創氏改名により「加藤」という日本名を使用していました。

現代財閥の創業と発展

1946年、鄭周永はソウルで現代自動車工業社（修理業）を設立、翌年には現代土建社（後の現代建設）を開業しました。朝鮮戦争時には、アメリカ軍の通訳士官だった弟の鄭仁永の協力を得て、米軍の建設工事を受注しました。その後、軍事政権下において、軍事基地、ダム、京釜高速道路、原子力発電所建設などの大規模プロジェクトを次々と手がけ、1972年には韓国で初めて造船業に進出し、蔚山に現代造船所（後のHD現代重工業）を建設しました。

1973年のオイルショックを機に、中東の建設工事にも進出し、外貨獲得に貢献しました。1976年にはサウジアラビアのジュベール産業港海上タンカーターミナルを受注し、その大胆な経営手法が世界的に注目されました。鄭周永は、未知の分野でもまず安価で受注し、その方法を後から考えるという戦略をとっていました。この間に、現代自動車、現代建設、現代重工業、現代鋼管など、現代グループの中核となる企業を次々に設立しました。

技術導入と企業拡大

造船事業においては、1万5000トン級の経験しかない中で30万トン級の船を受注し、日本の造船会社に研修員を派遣し、技術を習得しました。この際、設計図や道具などの技術情報を持ち帰ったというエピソードも伝えられています。1980年代には造船業が隆盛を迎え、現代重工業の造船所がある蔚山は、現代グループの城下町として発展しました。自動車産業では、フォードとの提携から、日本の三菱自動車からの技術協力を得て本格的に生産を開始しました。この技術協力が、後の韓国の自動車産業の発展に大きく貢献しました。鄭周永は、裸一貫から一代で韓国最大の財閥を築き上げ、その株式を寄贈して峨山財団を設立し、福祉事業にも貢献しました。

政治活動と晩年

1981年、鄭周永はソウルオリンピック誘致民間委員長に就任し、1988年のソウルオリンピック開催を実現させました。1987年に現代グループの名誉会長を退いた後は、全国経済人連合会会長など、財界活動に力を注ぎました。1992年には統一国民党を創設して大統領選挙に出馬しましたが、落選しました。

晩年は北朝鮮との関係改善に尽力し、1998年には牛500頭を北朝鮮に送り込むなど、対北朝鮮事業を積極的に展開しました。金剛山観光ツアーの開始にも尽力しましたが、巨額の赤字を抱えただけでなく、事業に関連して息子の鄭夢憲が自殺するという悲劇も経験しました。2000年には北朝鮮を訪問した後、体調を崩し、2001年3月21日に肺炎による急性呼吸不全のため死去しました。

人物像と逸話

鄭周永は、幼少期の貧困生活から這い上がり、一代で大財閥を築いたことから、強い意志と不屈の精神の持ち主として知られています。肉体労働時代に経験したトコジラミとの闘いから、「トコジラミも生きるために努力している」と奮起したというエピソードは有名です。

また、1980年代には、山中で見つかった巨大な朝鮮人参を7800万ウォンで購入し、その場で完食したという逸話も残っています。俳優のチェ・ブラムとの親交もあり、ドラマ出演を予定していたこともありました。一方、かつて現代建設で共に働いていた李明博とは、政界進出以降、関係が冷淡になったと言われています。

技術盗用疑惑と子息

鄭周永は、日本の造船会社からの技術盗用を公言したこともあり、その大胆な手法が議論を呼びました。彼は、技術を盗むことは国際的な慣行であると主張し、自社の技術力向上に役立ったと述べています。

鄭周永には多くの子息がおり、現代グループの経営権をめぐって争いが起きたこともありました。長男の夢弼は交通事故で、四男の夢禹と五男の夢憲は自殺で亡くなっています。六男の夢準は現代重工業を継承し、政治家としても活躍しました。

まとめ

鄭周永は、韓国経済の発展に大きく貢献した偉大な実業家であり、その波乱に満ちた生涯は多くの人々に影響を与えました。彼の創業した現代グループは、現在も韓国経済において重要な役割を果たしており、彼の名前は、韓国の経済史に永遠に刻まれています。

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