琉球貿易

琉球貿易の歴史

琉球貿易は、琉球列島（現在の沖縄県）を舞台に、日本、中国（明・清）、朝鮮、東南アジア（南海諸国）などの各国間を結んで行われた中継貿易です。琉球は、その地理的条件から農業生産力が乏しく、貿易はもっぱら周辺諸国の産物を仲介することをその根幹としていました。

古代から三山時代へ

古くは、日本の古代に当たる時期から「貝の道」と呼ばれる交易ルートが存在し、交易が行われていました。960年に成立した北宋は、周辺諸国との貿易を奨励したため、日本、宋、高麗、南島の間で貿易が活発化しました。この変化は、琉球列島において、先史時代からグスク時代への転換期をもたらしたと考えられています。

14世紀に入ると、琉球本島には北山、中山、南山の三つの政治勢力が成立します。これらの勢力の形成には、日本や中国との対外貿易の発展に伴う在地首長層の成長が大きく影響しています。北山は運天、中山は那覇、南山は馬天という有力な貿易港を有していました。

1372年、明の洪武帝の招きに応じて、琉球の三国は相次いで朝貢を行い、明の冊封を受けました。明は朝貢と冊封という制度を通じて東アジアの国際秩序を形成し、琉球は中国との貿易を行う上でこの制度に従う必要がありました。朝貢貿易は、当初、中華帝国の威信を示すため、採算を度外視して文物を冊封国に与えていたため、黎明期の琉球は特に大きな恩恵を受けました。また、明からは閩人が下賜され、職能、政治、文化の面で国家形成に大きな影響を与えました。

琉球王国の成立と発展

三山時代には、北山が17回、中山が52回、南山が26回の朝貢貿易を行ったと記録されています。1414年には、中山の尚巴志が日本の室町幕府に遣使を行い、その間に尚巴志が残りの2国を滅ぼし、琉球王国が成立しました。

琉球王国は、明への朝貢貿易を定期的に行い、日本へも使者を派遣していました。しかし、応仁の乱による日本の混乱から、次第に日本の商人が琉球を訪れるようになりました。15世紀半ばからは、周防国の大内氏も対明貿易に参入し、東南アジアと貿易を行っていた琉球王国との間で産物を求める使節を派遣しました。交易ルートは周防国から東九州沖を南下し、南九州を経て南島に至るものでした。

琉球王国は、明への朝貢品として、琉球で取れる馬や硫黄、日本産の刀剣、東南アジア産の胡椒や蘇木・象牙などを進上し、その代わりに明から多額の金品を賜りました。また、琉球の使臣・随伴者が持参した商品を明側が買い上げるという、事実上の官営貿易が行われました。この貿易のために、琉球は、琉球からの品物を運ぶ船と、明の沿岸付近で積み替えるための接貢船を用意しました。明から入手した銅銭は、需要の高い日本との貿易に利用されました。

貿易の衰退と変容

15世紀前半頃まで、朝貢貿易や南方との貿易で栄華を誇った琉球王国でしたが、次第に貿易相手国の政治情勢や東シナ海の情勢変化に翻弄されるようになります。明は1474年に朝貢を制限し、16世紀にはポルトガルが東南アジアに進出してマラッカを占領、明との交易も開始させました。これにより、東シナ海の海禁が緩み、後期倭寇が台頭し、琉球船の活動が制約を受けました。

また、日本も南蛮[[貿易]]（後の朱印船貿易）に本格的に進出し始め、琉球の中継貿易は衰退に向かいました。琉球貿易の衰退とともに、王国の国力は弱まり、日本への経済的従属が進みました。1523年には、大内氏と細川氏の間で日明貿易を巡る争いが激化し、日明貿易が一時的に断絶しました。

島津氏の台頭と琉球侵攻

島津氏と琉球の関係は、琉球王国の成立頃から始まっていたと考えられています。1471年には、島津氏が琉球への海上航行権を巡り、発言力を高め、貿易の独占を志向するようになりました。島津氏は、琉球への介入を正当化するため、「三宅国秀事件」や「嘉吉附庸説」などを持ち出しましたが、これらは後世の研究で虚偽であったとされています。

島津氏は、琉球に対し、島津氏の渡航朱印状を持たない船舶との交易の停止を要求しましたが、琉球側はこれを黙殺しました。両者の関係は次第に敵対関係に転じ、1609年の薩摩藩による琉球侵攻へと繋がりました。薩摩藩の出兵の背景には、日本の時代背景や薩摩藩自身の財政難などがありました。侵攻後、琉球は奄美を割譲させられ、薩摩藩からの租税徴収を受けることになりました。

近世の琉球貿易

明に代わって中国本土を掌握した清も琉球国王に冊封を与え、福州に琉球館を設置しました。江戸幕府は、鎖国政策を取りながらも、貿易維持のため、薩摩藩による琉球を介した貿易を容認しました。しかし、これは琉球王国にとって、日本（江戸幕府および薩摩藩）が必要とする品を確保・献上する義務を負うことを意味しました。

明との朝貢貿易では銀を輸出し、生糸を輸入しました。薩摩藩との貿易では、砂糖が主力商品であり、琉球産の砂糖や鬱金を輸出して銀を輸入しました。江戸幕府は、元禄改鋳で発行した銀の含有率が低かったため、琉球は薩摩藩と交渉し、慶長銀と同じ銀含有率への吹き替えを許可されました。その後、幕府が銀の輸出を規制したため、琉球は大坂銅座から入手した銅を明に輸出しました。

明の成化帝による朝貢制限以降、琉球貿易は低迷し、17世紀初頭からは薩摩藩が資金援助を行うようになりました。貿易船の維持が困難になったため、薩摩藩が琉球貿易の大半を支えるようになりました。江戸幕府は、貿易抑制策を出すとともに、貿易損害分の金額を琉球へ補填しました。

琉球貿易は、幕末期まで東アジアの貿易において重要な役割を果たし、その資金援助を行った薩摩藩の財政に大きく貢献しました。琉球貿易は、その歴史を通して、琉球王国の経済、文化、そして政治に多大な影響を与えたと言えるでしょう。

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