瑞円寺

瑞円寺：千駄ヶ谷の静寂に佇む歴史と文化の宝庫

東京都渋谷区千駄ヶ谷に位置する瑞円寺は、曹洞宗に属する寺院です。高雲山金剛院と号し、千駄ヶ谷の総鎮守である鳩森八幡神社の別当寺として、古くから地域の人々の信仰を集めてきました。

広大な境内と豊かな自然

よく整備された境内は広く、四季折々の花々が彩りを添えます。早咲きで知られる梅林のほか、椿、ツツジ、萩など様々な植物が植えられており、散策に最適な空間です。春には梅の甘い香りが境内全体を包み込み、訪れる人々を癒やします。

歴史と信仰の痕跡：庚申塔と六面塔

本堂右手の無縁塔には、渋谷区唯一の六面地蔵を浮き彫りした笠付型の六面塔が鎮座しています。これは六地蔵信仰を象徴する貴重な遺構です。また、無縁塔の左側には、側面に稲穂をくわえた狐が彫られた庚申塔が2基あり、稲荷信仰を示しています。うち1基は享保5年（1720年）建立と記録されており、地域の信仰の歴史を物語っています。

著名人の眠る墓所

瑞円寺の墓地には、歴史に名を残す著名人たちが眠っています。本堂正面の墓地には、陸軍中将で荻生徂徠の後裔である旧旗本首藤多喜馬（三田の荻生徂徠墓にも分骨墓がある）や、土木技術者・衆議院議員として活躍した久米民之助の墓があります。裏手の墓地には、俳人・太白堂桃隣、講談師・三代目一龍斎貞山（戒名: 一山真透居士）などの墓が静かに佇み、彼らの功績を偲ばせます。幕末の幕臣・木村芥舟も当初は瑞円寺に埋葬されていましたが、後に青山霊園に移されています。

榎坂と「お万榎」：性器崇拝と信仰の物語

瑞円寺への門前には「榎坂」と呼ばれる坂道があります。かつてこの坂には、「お万榎」と呼ばれる巨大な榎の木が存在しました。この木は上部が二股に分かれ、股の部分が空洞になっていることから、女陰に見立てられ、性的な信仰の対象となっていました。

「お万榎」という名は、仙寿院を創建した徳川頼宣の生母・お万の方（瑞円寺住職の叔母でもあったと伝わる）が信仰したことに由来しています。江戸庶民は「古里大明神」と幟を立ててこの榎を祀り、遊女や女将など多くの人々が参拝に訪れました。しかし、江戸時代初期の大風で折れた後も、不思議にも2本の若芽が生え伸び、独特の姿となりました。その後、その洞穴には稲荷が祀られ、「榎稲荷」として信仰を集めるようになりました。

1945年の空襲で焼失した「お万榎」と榎稲荷は、戦後、瑞円寺の敷地内に再建され、現在も商売繁盛、縁結び、金運、子授け、子供の病気平癒など、様々な願いを込めた信仰を集めています。

瑞円寺周辺の寺院

瑞円寺のすぐ東側、外苑西通りの手前には日蓮宗の仙寿院があります。また、観音坂の入口には真言宗の聖輪寺があり、この地域には複数の寺院が近接して存在していることがわかります。瑞円寺は、これらの寺院とともに、千駄ヶ谷の歴史と文化を彩る重要な存在なのです。

昭和初期の記述

1937年（昭和12年）に出版された白石実三の著書では、「千駄ヶ谷の例の榎」として「お万榎」が紹介され、その独特の形と、性器崇拝の対象となっていたこと、そして、それが学術研究の対象にもなっていたことが記されています。

瑞円寺は、歴史、信仰、自然が織りなす静寂な空間です。都会の喧騒を離れて、歴史と文化に触れてみませんか？

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