田中貴子 (国文学者)

田中貴子：中世文学への深い洞察と多様な視点

田中貴子氏は、1960年生まれの日本の国文学者であり、中世文学、特に14世紀の天台僧による『渓嵐拾葉集』研究で高く評価されている第一人者です。京都市の医師の家に生まれ、同志社中学校・高等学校を経て、奈良女子大学文学部国語国文学科を卒業。その後、広島大学大学院文学研究科博士課程に進み、稲賀敬二氏に師事しました。博士課程単位取得退学後、広島大学助手、池坊短期大学専任講師、梅花女子大学専任講師・助教授、京都精華大学助教授を経て、2005年から甲南大学文学部日本語日本文学科教授として後進の育成に当たっています。

学術的業績と受賞歴

田中氏の研究活動は多岐に渡り、数々の賞を受賞しています。1989年には「玉女の成立とその限界」で日本古典文学会賞を受賞。1992年には初の著書『＜悪女＞論』が大きな話題を呼びました。この著作は、「女の目でテクストを見る」という独自の視点から、中世文学における女性像を多角的に分析したもので、当初はフェミニズム批評家として注目を集めました。しかし、田中氏自身はフェミニズム批評を目的としておらず、むしろ「テクストをちゃんと読んでいない」と感じるフェミニストや日本女性史研究への違和感から距離を置くようになったと語っています。

2002年には「『渓嵐拾葉集』の基礎的研究」で神戸女子大学より博士（日本文学）の学位を取得。2004年には『あやかし考』でサントリー学芸賞を受賞するなど、学界における貢献は目覚ましいものがあります。

多様な著作と関心の広がり

田中氏の著作は多岐に渡り、『＜悪女＞論』、『外法と愛法の中世』、『百鬼夜行の見える都市』、『聖なる女－斎宮・女神・中将姫』など、中世文学、女性史、妖怪・怪異といったテーマを幅広く扱っています。世間の怪談ブームの中、玉石混淆の情報が溢れる状況に対しては、国文学者として、テクストと原資料に基づいた厳格な研究姿勢を貫き、数多くの著作を発表し続けています。近年では、高等学校における古文教育、美術と文学の接点、近代と中世という時間軸を跨いでの比較研究など、関心の幅を広げ、精力的に研究活動に取り組んでいます。

人物像：愛猫家としての側面

学術的な業績だけでなく、田中氏の温かい人となりも伺えます。愛猫家としても知られ、著書のあとがきには愛猫への感謝の言葉が綴られていることも。その多様な関心、幅広い知識、そして優しく穏やかな人柄は、多くの読者や学生から慕われています。

主要な著作一覧

田中氏の著作は膨大であり、その一部を以下に挙げます。

『＜悪女＞論』（紀伊国屋書店、1992年）
『外法と愛法の中世』（砂子屋書房、1993年）
『百鬼夜行の見える都市』（新曜社、1994年）
『聖なる女－斎宮・女神・中将姫』（人文書院、1996年）
『日本古典への招待』（ちくま新書、1996年）
『性愛の日本中世』（洋泉社、1997年）
『日本ファザコン文学史』（紀伊国屋書店、1998年）
『室町お坊さん物語』（講談社現代新書、1999年）
『仏像が語る知られざるドラマ』（講談社+α新書、2000年）
『鈴の音が聞こえる-猫の古典文学誌』（淡交社、2001年）
『「渓嵐拾葉集」の世界』（名古屋大学出版会、2003年）
『安倍晴明の一千年-「晴明現象」を読む』（講談社選書メチエ、2003年）
『あやかし考-不思議の中世へ』（平凡社、2004年）
その他多数

田中貴子氏は、その深い学識と独自の視点、そして温かい人柄で、これからも中世文学研究に大きな貢献をされることでしょう。

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