田園交響曲 (ヴォーン・ウィリアムズ)

レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ：交響曲第3番「田園交響曲」

イギリスを代表する作曲家、レイフ・ヴォーン・ウィリアムズが手掛けた3番目の交響曲は、「田園交響曲（A Pastoral Symphony）」と題されています。1918年から1921年にかけて作曲され、後に交響曲第3番という番号が与えられました。全体を通して静謐で瞑想的な雰囲気に満ちた、全4楽章構成の作品です。

作品の背景と特徴

この交響曲のユニークな着想の一つとして、ヴォーン・ウィリアムズが第一次世界大戦中に従軍していた際のエピソードが伝えられています。ラッパ手が誤って本来のオクターブではなく7度の音程を吹いたその響きが、特に第2楽章におけるナチュラルトランペットの印象的なソロへと発展しました。

音楽的な特徴として最も顕著なのは、全楽章がモデラートあるいはレントといった遅いテンポで占められている点です。例外的な箇所を除けば、曲中に速いテンポの音楽が現れることはほとんどありません。また、イギリス民謡に通じる五音音階に近い旋法や、フランスの作曲家ラヴェルに師事した経験も影響したとされる印象派風の豊かな和声が多用されており、ヴォーン・ウィリアムズの他の交響曲群の中では比較的なじみやすい響きを持っています。しかしながら、その静けさや内省的な響きは、第一次世界大戦で命を落とした友人ジョージ・バターワースを含む多くの犠牲者への挽歌、あるいは追悼の音楽として解釈されることも多い作品です。

楽器編成

編成はバスーンを除き、3管編成が基本となります。フルート3（ピッコロ持ち替え）、オーボエ2、コーラングレ、クラリネット3（バスクラリネット持ち替え）、バスーン2、ホルン4（ナチュラルホルン持ち替え）、トランペット3（ナチュラルトランペット持ち替え）、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、トライアングル、バスドラム、シンバル、ハープ、チェレスタ、そしてソプラノまたはテノール独唱（歌詞のないヴォカリーズ）です。弦楽器の独奏が多用されるのも特徴です。

一部のパート（3番フルート、2番オーボエ、3番クラリネット、バスクラリネット、3番トランペット、チェレスタ、独唱）は省略が可能となっており、その際は他の楽器奏者が代わりに演奏します。また、ナチュラルトランペットやナチュラルホルンは通常のバルブ付き楽器で代用可能ですが、特にトランペットで作曲家が意図した第7倍音や第9倍音といった独特の音程は再現されないことに留意が必要です。

楽章構成

第1楽章：モルト・モデラート
ソナタ形式で書かれています。流れるような旋律線と印象派風の美しい響きが支配的です。低弦やハープによる上昇音型と独奏ヴァイオリンの下降音型からなる第1主題、コーラングレによって奏される素朴な第2主題が提示されます。音楽は次々と表情を変え、まるで即興的に紡がれているかのような印象を与えます。

第2楽章：レント・モデラート
ホルンの主題で始まり、第1楽章よりも一層瞑想的な雰囲気を深めます。音楽は絶えず移り変わり、神秘的な弱音の中からナチュラルトランペットによるカデンツァ風のソロが現れ、一瞬の高揚を見せますが、すぐに静けさを取り戻します。楽章の終わり近くではナチュラルホルンが呼びかけに応じるように現れますが、弦楽器の弱々しい応答とともに静かに消え入るように閉じられます。

第3楽章：モデラート・ペザンテ － プレスト
形式的にはスケルツォに相当しますが、速いテンポではなく、作曲家自身は「スロー・ダンス」と表現しました。A-B-A-B-Aの形式を取り、A部分は低弦と金管の重々しい応答から始まります。B部分はトランペットに導かれる輝かしいトリオです。楽章の最後に付されたプレストのコーダは、この交響曲の中で唯一速いテンポの音楽が現れる箇所であり、Aの素材を用いたフーガ風の対位法的な書法が特徴的です。

第4楽章：レント － モデラート・マエストーソ
先行する3つの楽章の瞑想的な雰囲気から一転し、より感情的な色彩を帯びた楽章です。ティンパニのロールを背景に、ソプラノまたはテノール独唱（省略時はクラリネット）による旋法的なレチタティーヴォで開始されます。その後、木管楽器から始まる悲歌的な主題が徐々に盛り上がりを見せ、その頂点では冒頭の旋律が高音楽器によって熱情的に歌われます。主題も全オーケストラへと広がり、壮大なクライマックスを築きます。しかし、曲の終わりでは再び静けさを取り戻し、独唱が遠ざかるように歌って、全体が静かに幕を閉じます。

この「田園交響曲」は、華やかさよりも内的な深みとイギリスの風景を思わせる叙情性に満ちた、ヴォーン・ウィリアムズの個性がよく表れた作品と言えるでしょう。

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