田村俊子

田村俊子

田村俊子（たむら としこ、1884年4月25日 - 1945年4月16日）は、明治時代から昭和時代にかけて活躍した日本の小説家です。本名は佐藤とし。旧姓は田村。官能的で退廃的な美の世界を描き、読者の心を掴みました。彼女の作品は、当時の社会における女性の葛藤や欲望を赤裸々に描き出し、多くの議論を呼びました。

生涯

1884年（明治17年）、東京府東京市浅草区蔵前町（現在の東京都台東区蔵前）に、代々続く札差の米穀商の娘として生まれました。幼少期は浅草で過ごし、小学校を転々としました。東京女子高等師範学校附属高等女学校（現在のお茶の水女子大学附属中学校・高等学校）に入学するも、わずか1学期で退学。その後、東京府立第一高等女学校（現在の東京都立白鷗高等学校・附属中学校）に転学しました。

作家を志した田村は、幸田露伴に師事します。尾崎紅葉の「金色夜叉」の上演に付きっきりでやかましく言っているのと反対に、露伴は「ひげ男」の上演に一切無干渉だという新聞記事を読み、人格に惚れたためだったと言われています。1902年には、露伴から与えられた露英の名で小説『露分衣（つゆわけごろも）』を発表しますが、露伴の元を離れ、岡本綺堂らの文士劇に参加したことをきっかけに女優としての道を歩み始めます。女優としての芸名は花房露子。

しかし、文学への情熱は消えることなく、1909年に結婚（事実婚）した田村松魚の勧めで書いた『あきらめ』が、1911年に大阪朝日新聞懸賞小説一等に入選し、文壇デビューを果たします。その後、「青鞜」、「中央公論」、「新潮」といった有力な文芸雑誌に次々と小説を発表し、人気作家の仲間入りを果たしました。

しかし、1918年、朝日新聞記者の鈴木悦を追いかけ、松魚と別れてカナダのバンクーバーへ移住します。悦とともに現地の邦字紙「大陸日報」の編集に携わりました。1936年、鈴木悦の死により18年ぶりに帰国。日本で作家活動を再開しますが、かつての勢いはありませんでした。また、佐多稲子の夫である窪川鶴次郎との情事が発覚し、その経験を基に小説『山道』を発表した後、日本を離れて上海に渡り、中国語婦人雑誌『女声』を主宰しました。

1945年4月13日、友人の中国人作家陶晶孫の家からの帰り道に倒れ、上海の病院で脳溢血のため亡くなりました。享年62歳。墓所は鎌倉の東慶寺にあります。

作品の特徴

田村俊子の作品は、女性の心理を鋭く描き出した点が評価されています。特に、社会的な束縛や倫理観に縛られながらも、自身の欲望や感情に正直に生きようとする女性たちの姿を、大胆かつ繊細に表現しました。また、官能的で退廃的な美意識も彼女の作品の特徴であり、独特の世界観を構築しています。

主な作品

生血
女作者
炮烙の刑
山道
あきらめ
木乃伊の口紅

参考文献

『田村俊子』 瀬戸内晴美(寂聴) 著
『田村俊子とわたし』 丸岡秀子 著
『晩香坡（バンクーヴァー）の愛―田村俊子と鈴木悦』 工藤美代子、Ｓ・フィリップス共著
『田村俊子の世界 作品と言説空間の変容』 山崎眞紀子 著

田村俊子の作品は、現代においても多くの読者を魅了し続けています。彼女の作品を通して、人間の心の奥底にある欲望や葛藤、そして生きることの喜びや悲しみを深く感じ取ることができるでしょう。

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