田沼意知

田沼意知（たぬま おきとも）とは

田沼意知は、江戸時代中期に活躍した人物で、老中・田沼意次の嫡男として生まれました。相良藩の世嗣であり、若年寄という要職を務め、父である意次と共に幕政を支えました。その官位は従五位下・大和守、播磨守、山城守と昇進しています。

生涯

1767年、19歳で従五位下・大和守に叙任された意知は、1781年には奏者番に任命され、1783年には父・意次の世子の身分のまま若年寄に就任するという異例の出世を果たしました。これは、徳川綱吉の時代に老中・大久保忠朝の子である忠増が世子のまま若年寄になった例以来の出来事でした。

若年寄という要職にありながら、意知は奥詰めの役目も兼務し、父・意次が老中でありながら奥詰めを務めていたのと同様の役割を担いました。これは、幕府内での田沼家の勢力を示すものであり、意知が父の政治を支える上で重要な役割を果たしていたことを物語っています。

しかし、1784年に江戸城内において佐野政言に斬りつけられ、その傷がもとで8日後に36歳という若さでこの世を去りました。この事件は、当時の政治情勢を大きく揺るがすことになります。

暗殺事件とその影響

父・意次と共に幕閣で活躍していた意知は、父と別居するために田沼家の中屋敷または下屋敷に移りました。しかし、新たな屋敷を構えたのは暗殺事件の直前でした。意知の死後、江戸の市民の間では佐野を賞賛する声が上がり、田沼政治への批判が高まりました。また、幕閣内でも松平定信ら反田沼派が勢いを増し、田沼家の勢力は衰退していくこととなります。

オランダ商館長のイサーク・ティチングは、この事件を「鉢植えて 梅か桜か咲く花を 誰れたきつけて 佐野に斬らせた」という落首を用いて世界に伝えました。彼は、「田沼意知の暗殺は幕府内の勢力争いから始まったものであり、井の中の蛙ぞろいの幕府首脳の中で、田沼意知だけが日本の将来を考えていた。彼の死により、近い将来起こるはずであった開国の道は完全に閉ざされた」と記しています。この言葉は、意知が単なる政治家ではなく、日本の未来を見据えた人物であった可能性を示唆しています。

田沼家のその後

意知の死後、父・意次は失脚し隠居しました。その後を継いだのは、意知の長男・意明でしたが、後見人であった意次が間もなく亡くなり、意明自身も夭折しました。その後、次男・意壱、四男・意信も早世し、意知の血筋は絶えてしまいました。

田沼家の家督は、意知の従子にあたる意定、次いで意知の弟・意正が継ぐことになりました。意知の死は、田沼家にとって大きな転換点となり、その後の家運を左右する出来事となりました。

系譜

父：田沼意次（1719年 - 1788年）
母：黒沢定紀の娘
正室：松平康福の娘
生母不明の子女
長男：田沼意明（1773年 - 1796年）
次男：田沼意壱（1780年 - 1800年） - 意明の養子
四男：田沼意信（1782年 - 1803年） - 意壱の養子
養子
女子：稲葉正武正室、のち土方義苗正室、田沼意致の娘

関連作品

意知は、小説や漫画、映画、テレビドラマなど、様々なジャンルの作品に登場しています。これらの作品を通して、意知の人物像や時代背景を垣間見ることができます。

小説
稲葉稔 『邪鬼』
芦辺拓 『鶴屋南北の殺人』
横溝正史 『神変稲妻車』
筑前助広『颯の太刀』
漫画
みなもと太郎 『風雲児たち』
よしながふみ 『大奥』
池波正太郎・大島やすいち 『剣客商売』
映画
剣光桜吹雪（1941年）
紫頭巾（1958年）
ふたり若獅子（1959年）
忍術使いと三人娘（1961年）
武士道残酷物語（1963年）
歌麿 夢と知りせば（1977年）
テレビドラマ
闇を斬れ（1981年）
栄花物語（1983年）
快傑黒頭巾（1990年）
大江戸風雲伝（1994年）
殿さま風来坊隠れ旅（1994年）
大江戸捜査網2015〜隠密同心、悪を斬る!（2015年）
陽炎の辻 完結編〜居眠り磐音 江戸双紙〜（2017年）
大奥（2024年）
べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～（2025年）

関連項目

世直し

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