由井正臣

由井 正臣

由井 正臣（ゆい まさおみ、1933年1月10日 - 2008年4月4日）は、日本の歴史研究者であり、早稲田大学の名誉教授として知られています。専門分野は日本近代史に置かれ、特に近代日本における軍部の確立過程や、足尾鉱毒事件などで知られる社会運動家・田中正造に関する探究で、学界に多大な貢献を果たしました。

生涯と経歴

長野県の南佐久郡で生を受けた由井氏は、同県の野沢北高等学校を経て、1956年に早稲田大学第一文学部史学科を卒業されました。大学卒業後、1957年に国立国会図書館の職員となり、1963年からは同図書館の憲政資料室で勤務。歴史資料の調査・整理に携わる中で、研究者としての基礎を培ったと考えられます。1968年、国立国会図書館を辞し、駒澤大学文学部で講師の職に就きました。その後、1971年には同大学の助教授に昇任します。

1973年、母校である早稲田大学文学部に助教授として迎えられ、1978年には同大学の教授となりました。早稲田大学では長年にわたり教鞭を執り、多くの後進を育成しました。2003年に早稲田大学を定年で退き、その後、同大学より名誉教授の称号を贈られています。

研究業績

由井氏の主要な研究テーマは、日本近代史における国家と社会、権力と民衆の関係性に向けられました。中でも、近代日本の軍隊がどのように形成され、国民統合にどのように関わったのかという問題意識は、『軍部と民衆統合』などの著書に結実しています。日清戦争から満州事変期に至る激動の時代における軍部の役割を深く掘り下げたその研究は、この分野における重要な業績の一つとされています。

また、由井氏の研究活動の大きな柱の一つが、田中正造に関するものです。社会的な不正に対し、国会議員として、そして一市民として粘り強く抵抗した田中正造の思想と行動を多角的に分析。田中正造の生涯や思想を一般に分かりやすく解説した『田中正造』（岩波新書）は広く読まれました。さらに、田中正造に関する一次史料の収集・整理にも精力的に取り組み、『田中正造全集』や『田中正造選集』などの編纂に中心的な役割を果たしました。これらの資料集は、田中正造研究において不可欠な基礎文献となっています。

その他の研究テーマとして、幕末維新期の政治構想や、大正デモクラシー、太平洋戦争期など、幅広い時代の近代日本史に関心を寄せ、編著や共編著を通じて研究成果を発表しています。歴史資料の編纂にも深く関わり、『後は昔の記 他 林董回顧録』のような貴重な文献の刊行も手掛けています。

主な著作・編纂資料

単著

『田中正造』（岩波新書、1984年）
『日本の歴史 8 大日本帝国の時代』（岩波ジュニア新書、2000年）
『軍部と民衆統合 日清戦争から満州事変期まで』（岩波書店、2009年）

主な編著・共編著

『論集日本歴史 12 大正デモクラシー』（有精堂出版、1977年）
（鹿野政直と共編）『近代日本の統合と抵抗』1-4（日本評論社、1982年）
『近代日本の軌跡 5 太平洋戦争』（吉川弘文館、1995年）
（加藤友康と共編）『日本史文献解題辞典』（吉川弘文館、2000年）
（臼井勝美他と共編）『日本近現代人名辞典』（吉川弘文館、2001年）
『枢密院の研究』（吉川弘文館、2003年）

主な編纂史料

（田中正造全集編纂会として）『田中正造全集』全19巻・別巻1（岩波書店、1977-1980年）
『資料日本現代史 6 国家主義運動』（大月書店、1981年）
（安在邦夫他と共編）『田中正造選集』全7巻（岩波書店、1989年）
（藤原彰・吉田裕と共編）『日本近代思想大系 4 軍隊 兵士』（岩波書店、1989年）
（小松裕と共編）『亡国への抗論 田中正造未発表書簡集』（岩波書店、2000年）
* （小松裕と共編）『田中正造文集』1, 2（岩波文庫、2004-2005年）

由井正臣氏は、近代日本史の多岐にわたる領域において、深い洞察と実証的な手法をもって研究を推進しました。特に、軍事と民衆の関係、そして社会運動史における田中正造の位置づけに関するその業績は、現代の日本史研究においても参照され続けています。

※本記述は、提供された情報に基づき構成されています。

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