男性の肖像 (ティツィアーノ、ルーヴル美術館)

ティツィアーノ作『男性の肖像』の詳細解説

『男性の肖像』（仏: L'Homme, main à la ceinture、英: Man with a Glove）は、ヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1523年頃に制作した油彩画です。この作品は、パリのルーヴル美術館に所蔵されており、同じくルーヴル美術館にある『手袋を持つ男』とほぼ同時期の作品と考えられています。両作品とも、かつてはマントヴァのゴンザーガ家のコレクションに属していました。

作品の来歴

1627年、イングランド王チャールズ1世がこの絵画を非常に高額で購入しましたが、チャールズ1世の処刑後、競売にかけられ、銀行家エバーハルト・ジャバッハの手に渡りました。その後、1671年にルイ14世のコレクションとなり、現在に至ります。

モデルの人物像

この絵画のモデルについては、様々な説が提唱されています。1527年のフェデリーコ2世・ゴンザーガへの手紙を根拠に、ウルティックは描かれている人物がピエトロ・アレティーノであると主張しました。しかし、この説は根拠が薄く、現在では否定されています。特に、フィレンツェのパラティーナ美術館に所蔵されている『ピエトロ・アレティーノの肖像』と比較すれば、両者が別人であることは明らかです。

現在最も有力な説は、モデルが1523年に33歳から34歳で亡くなったジェノヴァの貴族、ジローラモ・アドルノであるというものです。彼は神聖ローマ皇帝カール5世のヴェネツィア大使であり、『手袋を持つ男』のモデルと同一人物である可能性も指摘されています。

絵画の詳細な描写

この作品では、暗い背景をバックに、男性の半身像が描かれています。男性の身体は右に4分の3ほど向き、頭部は左を向いています。視線は鑑賞者とは異なる一点を見つめており、その表情から何かを深く考えている様子が伺えます。

男性は黒色のゆったりとしたガウンと白いシャツを身に着けており、腰に手を当てています。その容貌は非常に個性的で、鑑賞者に様々な印象を与えます。宮廷的な高貴さ、野心、頭脳の明晰さ、そして男性的魅力が、見る者の心に強く残ります。

作品の特徴と解釈

ティツィアーノの卓越した筆致は、モデルの個性を際立たせ、その内面までも描き出しているかのようです。特に、視線の表現や表情の深みは、見る者を魅了します。この作品は、単なる肖像画ではなく、当時の社会や文化、そして人間の心理を深く理解する上で貴重な資料と言えるでしょう。

参考文献

中山公男・佐々木英也責任編集『NHKルーブル美術館IV ルネサンスの波動』、日本放送出版協会、1985年刊行 ISBN 4-14-008424-3
Francesco Valcanover, L'opera completa di Tiziano, Rizzoli, Milano 1969.

外部リンク

* ルーヴル美術館公式サイト、ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『男性の肖像』 (フランス語)

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