登り石垣

登り石垣とは

登り石垣（のぼりいしがき）は、16世紀末の豊臣秀吉による朝鮮出兵（文禄・慶長の役）の際に、朝鮮半島に築かれた倭城の防御を強化するために用いられた特有の石垣構築技術です。別名、竪石垣（たていしがき）とも呼ばれます。

概要

文禄・慶長の役において、日本軍は朝鮮半島各地に倭城を築き、その多くは、日本からの補給を円滑に行うため、海岸や河川に近い場所に位置していました。これらの城では、見晴らしの良い高台に本丸や天守が置かれ、その下の平地には兵士の居住区や補給拠点が設けられました。この高台と平地の間の防御を固めるために築かれたのが登り石垣です。

登り石垣は、山腹に沿って、本丸から港や平地を取り囲むように設けられ、敵が山腹から侵入するのを防ぐ役割を果たしました。この発想は、中国の万里の長城にも通じるものがありますが、登り石垣はより局地的で、戦闘員を保護するためのものでした。倭城の多くは平山城であり、曲輪（くるわ）の配置は、連郭式、梯郭式、輪郭式など様々な形式が見られました。

日本軍撤退後、多くの倭城では天守や櫓が破壊されましたが、登り石垣を含む石垣は、その多くが現存しています。ただし、城によっては石垣の角部が部分的に破壊されている箇所もあります。特に長大な登り石垣で知られるのは熊川城で、山頂の本丸から麓まで、北側は600メートル、南側は400メートルにも及んでいます。
近年では、この登り石垣が、中国、朝鮮半島、日本の築城技術交流を示す貴重な遺構として注目され、韓国でも調査や研究が進められています。

日本国内の状況

朝鮮半島から帰国した加藤嘉明や脇坂安治といった大名たちは、その築城技術を日本国内の城郭にも応用しました。しかし、一国一城令や明治維新前後の城郭破却により、登り石垣の歴史的経緯や築造箇所については、まだ十分に解明されていない部分が多く残されています。

主な日本の事例

松山城: 加藤嘉明が1602年から築城を開始した際に、国内最大級の登り石垣を築きましたが、明治維新前後に北側部分が取り壊され、南側のみが完全に保存されています。
彦根城: 1603年から幕府によって築城が開始された際に、登り石垣が築かれました。現在も良好な状態で保存されていますが、本来の山上の曲輪と山麓の曲輪を結ぶためではなく、山腹の移動を妨げる竪堀の発展形として築かれたと考えられています。
洲本城: 脇坂安治が石垣を大改修した際に登り石垣を設けています。しかし、一国一城令で破却されたため、遺構の保存状態はあまり良くありません。
竹田城: 北千畳曲輪の北西部、下方尾根部に、登り石垣が残っています。
米子城: 米子城絵図に描かれた登り石垣が、本丸北西側から内膳丸の御門にかけて確認されました。発掘調査の結果、築城初期の吉川広家時代に造られた可能性が高いと推測されています。

中世城郭における登り石垣状の遺構

近世の城郭だけでなく、中世の城郭にも登り石垣状の遺構が存在することが確認されています。

熊城: 山梨県甲府市に位置する、武田氏の本拠である躑躅ヶ崎館の背後にある要害山城の東側をガードするように築かれた城に、登り石垣状の遺構があります。
尼巌城: 長野県長野市にある、川中島の戦いに関連する山城とされる城には、主郭から南東の尾根にかけて竪堀に付随して登り石垣状の遺構があります。ただし、破却によって崩され、竪堀内に残石が投棄された状態です。
祢津城: 長野県東御市にある、祢津氏代々の居城である山城には、山麓部を囲い込むように長大な二重竪堀が設けられ、その内側に登り石垣状の遺構があります。

まとめ

登り石垣は、朝鮮出兵時に生まれた独特の築城技術であり、日本の城郭にも影響を与えました。その歴史的背景や構造を理解することは、日本の城郭史を深く理解する上で重要な要素となります。今後、さらなる調査と研究によって、その全容が解明されることが期待されます。

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