一国一城令

一国一城令：全国支配強化のための幕府の政策

慶長20年閏6月13日（1615年8月7日）、江戸幕府は全国の大名に対し、一国一城令を発布しました。これは、大名が一国に一つの城郭を残し、それ以外の城郭をすべて破却するという内容の法令です。大坂夏の陣直後の発令であり、幕府への反乱や大名同士の抗争を防ぎ、全国支配を強化するための政策でした。立案者は大御所・徳川家康、発令者は徳川秀忠とされています。

令制国と大名領国の二面性

「一国」という表現には、令制国と大名の領国という二つの意味が含まれていました。複数の令制国にまたがる領地を持つ大名は、各令制国に一つずつ城を残すことが許され、逆に一つの令制国を複数の大名で分割して領有する場合は、各大名ごとに一つの城郭を残すこととされました。

例えば、伊予国では大洲城、松山城、宇和島城がそれぞれ異なる大名によって維持されました。また、藤堂家は伊勢国の安濃津城と伊賀国の上野城の二城を残しました。

各藩の対応：多様な反応と隠された城

一国一城令は、各藩に多様な対応を促しました。分家統制の目的で積極的に廃城を進めた藩もあれば、領地替えにより城を新築せざるを得なくなり困窮した藩もありました。また、一部の城を密かに残存させた藩もあったようです。

毛利氏

毛利氏は周防国と長門国の二令制国を領有し、長門国の萩城を残して岩国城などを破却しました。しかし、幕府からは周防国に城を残す必要はなかったという反応がありました。これは、毛利家の幕府への遠慮や内部の支藩統制上の思惑があったためだと考えられています。

鍋島氏

鍋島氏は肥前国を領有し、佐賀城を残して他の城をすべて破却しました。これは、支藩統制上の思惑があったためと考えられ、実際、支藩の城主格昇進を妨害する騒動も起きています。

池田氏（岡山）

岡山藩の池田氏は、備前国と備中国の一部を領有し、岡山城を残して他の城を破却しました。姫路藩時代には赤穂城も保有していましたが、廃城となりました。

黒田氏

黒田氏は細川氏との国境に複数あった城をすべて破却し、福岡城のみを残しました。

島津氏

島津氏は鹿児島城（鶴丸城）以外の城をすべて破却し、代わりに外城制度を導入しました。

山内氏

山内氏は土佐国内の城をすべて破却し、高知城のみを残しました。

井伊氏

井伊氏は彦根城を築くにあたり、佐和[[山城]]などの近江の諸城を破却しました。

尾張徳川氏

尾張徳川氏は名古屋城のみを残し、他の城を破却しました。しかし、附家老の成瀬氏（犬山藩）は犬山城を保有し続けました。

会津松平氏

会津松平氏は若松城の他に複数の城を保有していましたが、一部を破却しました。

堀尾氏

堀尾氏は松江城を残し、他の城を破却しましたが、誤って伊勢亀山城を解体するという事態も起きました。

松浦氏

松浦氏は平戸城以外を破却し、一国以上を領有しながらも陣屋大名となりました。

赤松有馬氏

赤松有馬氏は久留米城を再建するまで、無城状態が続きました。

生駒氏

生駒氏は高松城以外を破却したと報告しましたが、実際は丸亀城を隠していました。

京極氏（丹後）

京極氏は宮津城を残して他の城を破却しましたが、後に分家により一部が再建されました。

例外と弾力的な運用

一国一城令は厳格に適用されたわけではなく、大藩では大身の家臣が実質的な城を維持している例など、弾力的な運用がなされました。特に奥羽・北陸の大名にその傾向が見られます。

前田氏

前田氏は例外的に小松城を維持しました。

池田氏（鳥取）

鳥取池田氏は鳥取城、米子城、倉吉城の三城を維持しました。

紀伊徳川家

紀伊徳川家は五城を維持しました。

京極氏（若狭）

京極氏は小浜城と高浜城の二城を維持しました。

長沢松平家

長沢松平家は複数の城を維持しました。

越前松平家

越前松平家は複数の城を維持し、家臣の本多氏も丸岡城を保有しました。

佐竹氏

佐竹氏は久保田城、大館城、横手城の三城を維持しました。

伊達氏

伊達氏は白石城など複数の城を維持しました。

上杉氏

上杉氏は米沢城の他に複数の城を維持しました。

浅野氏

浅野氏は広島城のみを維持しました。

南部氏

南部氏は複数の城を維持しました。

細川氏

細川氏は熊本城と八代城を維持しました。

一国一城令の意義と結果

一国一城令により、全国の城郭数は約3000から約170に激減しました。これは、徳川家による全国支配の強化と大名勢力の抑制に大きく貢献しました。特に西国の大名に対して徹底的に実施されました。また、家臣団や領民の城下町集住も促進しました。

まとめ

一国一城令は、江戸幕府による全国支配を確固たるものにするための重要な政策でした。しかし、その運用は必ずしも厳格ではなく、大名家の規模や勢力、幕府との関係などによって弾力的に運用されたことがわかります。各藩の対応や例外事例を検討することで、当時の政治情勢や大名たちの思惑をより深く理解することができるでしょう。

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