白血球増多

白血球増多（はっけっきゅうぞうた/ぞうか、Leukocytosis）

概要

白血球増多とは、血液検査において、白血球の総数がその年齢や性別、測定方法に応じた基準値よりも多くなっている状態を指します。これは体内で何らかの反応が起きているサインであり、特に炎症や感染症の存在を示す最も一般的な手がかりの一つです。しかし、その原因は感染症に限らず、生理的な変動や他の様々な病態によっても引き起こされる多岐にわたる所見です。

白血球増多そのものは、特定の疾患名ではなく、あくまで血液検査で確認される一つの「所見」として捉えられます。これは、発熱が様々な病気で現れるサインであるのと同様の考え方です。

原因

白血球が増加する原因は非常に多岐にわたり、特に急性期の病状にある患者さんによく見られます。主なものとして以下が挙げられます。

感染症: 細菌性、ウイルス性、真菌性、寄生虫性など、様々な病原体による感染は最も一般的な原因です。
炎症性疾患: 関節リウマチや炎症性腸疾患など、感染を伴わない炎症でも増加が見られます。
組織の損傷: 外傷、手術、熱傷（やけど）、心筋梗塞や脳梗塞による組織壊死など。
悪性腫瘍: 特定のがんや、白血病などの血液腫瘍（骨髄増殖性疾患）でも白血球が増えることがあります。
薬剤: 副腎皮質ステロイド、リチウム、ベータ作動薬など、特定の薬剤の使用によっても白血球数が増加することが知られています。
生理的要因: 激しい運動、物理的・精神的な強いストレス、てんかんなどの痙攣発作、妊娠・出産、麻酔、アドレナリンの投与後などに一時的に増加することがあります。
出血: 特に急性の大量出血後に見られることがあります。

細胞レベルの変化

白血球、特に好中球が増加する場合、しばしば「左方移動」と呼ばれる現象が見られます。これは、骨髄で新たに産生されたばかりの、まだ成熟していない若い白血球（特に好中球の前段階の細胞）が血液中に増えることを意味します。これは、体が必要とする白血球を急いで供給するために、骨髄が活性化されている状態を示唆します。この骨髄での細胞産生の亢進は、C3aやG-CSFといった炎症反応で生じる物質などによって刺激されます。

一方、比較的まれではありますが、「右方移動」と呼ばれる状態も存在します。これは、成熟した白血球の割合が増え、若い細胞が少なくなる、あるいは形態異常（巨大化など）が見られるケースです。これは骨髄の機能が低下している可能性を示唆し、悪性貧血や放射線被曝などによる骨髄抑制の際に観察されることがあります。

特殊な状態

類白血病反応 (Leukemoid reaction): 時に、白血球数が著しく（例えば25,000～30,000/µL以上に）増加することがありますが、これを「類白血病反応」と呼びます。これは白血病のような悪性疾患ではなく、 severe な感染症や重度の外傷、大きなストレスなど、体が強い刺激を受けた際に、骨髄が活発に反応して多くの白血球を放出する正常な生体防御反応の一つです。これは、実際に異常な未熟細胞が増殖する白血病や、赤芽球なども同時に異常をきたす白赤芽球症とは区別されます。
白血球鬱滞 (Leukostasis): さらに極端な例として、白血球数が100,000/µLを遥かに超えるような超高値となる場合、「白血球鬱滞」という緊急性の高い状態が発生することがあります。これは、あまりにも多くの白血球が血管内に充満することで、血液の流れが滞り、脳梗塞や肺梗塞など、体の重要な臓器に虚血性のダメージを与える危険性がある状態です。特定のタイプの白血病など、異常な白血球が大量に増殖する疾患で起こり得ます。

分類

白血球はいくつかの種類に分けられ、白血球増多も、主にどの細胞が増加しているかによって分類されます。

好中球増多 (Neutrophilia): 最も一般的です。細菌感染症や組織の炎症、ストレスなどで増加します。
リンパ球増多 (Lymphocytosis): ウイルス感染症や特定の慢性感染症、一部の血液疾患などで増加が見られます。
単球増多 (Monocytosis): 慢性炎症や結核などの感染症、一部の白血病などで増加します。
好酸球増多 (Eosinophilia): アレルギー反応、寄生虫感染、一部の皮膚疾患や悪性腫瘍などで増加します。
好塩基球増多 (Basophilia): 慢性骨髄性白血病など、比較的まれな疾患で増加が見られます。

診断と治療

白血球増多の診断は、血液検査で白血球数が基準値を超えることで行われます。ただし、基準値はあくまで目安であり、単なる数値だけでなく、患者さんの全身状態、症状、既往歴、その他の検査結果などを総合的に評価し、白血球増多を引き起こしている根本的な原因を特定することが最も重要です。

白血球増多そのものに対する直接的な治療が必要となるケースは多くありません。なぜなら、白血球増多はあくまで原因となる病態に対する体の反応であるため、通常は原因となっている病気や状態を治療することで、白血球数も自然と正常なレベルに戻っていくからです。しかし、白血病など特定の疾患に伴って白血球数が極端に増加し、前述した白血球鬱滞の危険があるような場合には、血球数を緊急に下げるための治療（化学療法や白血球除去療法など）が行われることがあります。

白血球増多は、体が何らかの刺激や変化に反応していることを示す重要なサインです。この所見が見られた際には、その背景にある原因を医師が詳しく調べ、適切な診断と治療につなげることが大切です。

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