皇輿全覧図

皇輿全覧図とは

『皇輿全覧図』（こうよぜんらんず）は、中国清代にイエズス会士によって作成された、中国全土の地図です。この地図は康熙57年（1718年）に康熙帝に献上され、実測に基づいた中国最初の地図として高く評価されています。『康熙図』の名でも知られており、中国の地理学における重要な一歩として位置づけられています。

背景

『皇輿全覧図』の制作の背景には、明代末期から続く西洋の地図作成技術が徐々に中国に導入されたことがあります。特に、イエズス会士たちは明代の1602年にマテオ・リッチによって作成された『坤輿万国全図』を手に、最新の地理情報を中国に持ち込んでいました。

康熙帝の命により、康熙46年（1707年）からはイエズス会士のブーヴェ、レジス、ジャルトゥーらがこの地図の製作に着手しました。彼らの活動は、1689年のネルチンスク条約など国防上の必要性から生まれたもので、同時に康熙帝の西洋数学への強い関心とも相まって進んでいきました。

測量と制作

以降の約10年間、1708年から1717年にかけて測量旅行が行われ、地図の作成が続けられました。地図製作においては、中国伝統の方格図法ではなく、三角[[測量]]や梯形投影法、経緯線の使用が採用されました。この先駆的なアプローチは、西洋の地図学の豊かな技術を背景にしており、当時の中国では前例のないものでした。

レジスの測量隊は沿岸地域やチベットなど、多岐にわたる調査を実施しました。さらには、チョモランマ（エベレスト）の標高測定なども手がけ、これにより中国の地理知識が大きく向上しました。銅版製作については、マッテオ・リパにその役割が与えられました。

影響と受容

『皇輿全覧図』は、後の地図製作に大きな影響を与えました。『雍正十排図』や『乾隆十三排図』、さらには『古今図書集成』や『大清一統志』といった文献においても、その地図は広く利用されました。また、この地図の情報はヨーロッパ諸国にも伝えられ、特にフランスのダンヴィルによる中国地図にも影響を与える形で活用されました。

さらに、江戸時代の日本でも、『古今図書集成』を通じてこの地図の内容が伝えられ、木村蒹葭堂や高橋景保などの地図研究者によって受け入れられました。特に北方探検において、未開のサハリン北部に関する資料としても価値を認められました。現代においては、尖閣諸島問題においてその参照が行われることもあります。

伝本と研究

『皇輿全覧図』の伝本は長い間失われていましたが、20世紀に入ってから再発見されることがありました。1929年には瀋陽の故宮において再発見され、その後、金梁や翁文灝、フックス、黒田源次らが研究を進めていきました。これにより、中国や海外における伝本の確認が進みました。この地図は、木版分域図と銅版連接図の大別がされる特徴があります。

地図がどのようにして作成されたのか、またその成立経緯については、様々な史料が残されています。これには、檔案や『聖祖実録』、デュアルドによる『中国誌』や『イエズス会士中国書簡集』などが含まれており、研究の重要な基盤となっています。

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