盗蜜

盗蜜（Nectar Robbing）とは

盗蜜とは、昆虫や鳥などの動物が、花の受粉を行わずに花蜜だけを奪う行為を指します。これは、送粉生態学や動物行動学において重要な用語です。

送粉と盗蜜の関係

被子植物は、蜜を分泌することで動物を誘引し、花粉を運ばせるように進化してきました。これらの動物は送粉者として植物に利益をもたらします。しかし、訪花動物の中には、蜜だけを奪い、受粉に関与しないものが存在し、これらは盗蜜者と呼ばれます。例えば、ツリフネソウではトラマルハナバチが送粉者として機能する一方、ゼンテイカでは盗蜜者となることがあります。このように、盗蜜と送粉の関係は、植物と動物の相互作用によって決まります。

盗蜜のパターン

田中（1993年）によれば、盗蜜のパターンは以下の5種類に分類されます。

1. 花弁や萼の間から蜜を吸い取る。
2. チョウやガなどの昆虫が、長い口吻で蜜腺から直接蜜を吸う。
3. 体が小さいため、葯や柱頭に触れずに花の奥にもぐりこんで蜜を吸う。
4. 花に穴を開ける、または花を引き裂いて蜜を吸う。
5. 上記4.で開けられた穴を利用して他の動物が蜜を吸う。

具体的な例

鳥類: サクラの花蜜を吸う野鳥のうち、メジロやヒヨドリは顔を花粉で黄色く染め、花粉を運ぶ送粉者となります。しかし、スズメは花の根元を嘴でちぎり、蜜だけを吸う盗蜜者です。
昆虫: 昆虫の場合、チョウ目、アリ、アザミウマなどが盗蜜者としてよく観察されます。また、多くの花の送粉者であるハナバチ類も、体の大きさと花の大きさが合わない場合には、送粉を行わずに盗蜜をすることがあります。特に、体の大きいクマバチやオオマルハナバチ類は、花の根本に穴を開ける穿孔盗蜜を行うことがよくあります。

植物の防御戦略

植物は、盗蜜に対抗するために様々な特徴を持つことがあります。

花筒の保護:
丈夫な萼などで花筒を保護する（例：ザクロ、オヒルギ、ヤブツバキ）。
花期に萼から粘液を分泌してアリなどの侵入を阻止する（例：モチツツジ）。
蜜の分散:
キク科植物のように小さな花が集まった頭状花序を作り、蜜を「小分け」にしておく。動物は、一つ一つの小花から盗蜜するよりも頭花上で蜜集めする方が効率が良いため、結果として送粉を行うことになります。
防御用の空間:
マンテマやホタルブクロなどは、花の外部から穴を開けても蜜腺が現れないように、蜜腺までの間に空隙を作ります。
蜜腺の位置が不定:
ナガハシスミレでは、蜜腺の位置が不定であり、花の外部形態から蜜腺の位置がわかりません。したがって、外部から花に穴を開けて盗蜜することが難しくなっています。

参考文献

田中肇(1993年)『花に秘められたなぞを解くために』農村文化社, ISBN 4931205151。

関連用語

受粉
送粉者
* 蜜食動物

もう一度検索