直接感熱記録印刷

直接感熱記録方式プリンター：仕組み、歴史、そして未来

直接感熱記録方式（ダイレクトサーマル）プリンターは、熱で色が変わる感熱紙に、加熱されたプリントヘッドを直接押し当てて印刷する技術です。インクやリボンを使わず、感熱紙のみが消耗品となるため、低コストで小型・軽量なプリンターを実現できます。動作音も非常に小さく、レジのレシートやラベル印刷など、様々な業務用途で広く活用されています。

動作原理と構成

ダイレクトサーマルプリンターは、熱で発色する感熱紙、熱を発生させるサーマルプリントヘッド、紙を送り出すプラテンローラー、感熱紙とヘッドの接触を調整するばねなどのシンプルな構成で成り立っています。このシンプルな構造が、低価格、小型化、軽量化、静音化を実現する鍵となっています。印刷コストも感熱紙の価格に依存するため、安価な感熱紙を使用すれば、1枚当たりの印刷コストを非常に低く抑えることが可能です。

歴史：電卓からFAX、そして現代へ

直接感熱記録方式プリンターの発明は、1965年にジャック・キルビー氏によるサーマルプリントヘッドの発明に遡ります。これは、キルビー氏がポケットサイズの計算機開発中に考案したもので、世界初の携帯型電卓「カルテク」に搭載されました。テキサス・インスツルメンツ社は当初、この技術を自社製品の技術デモとしてのみ使用していましたが、その後、キヤノンがその権利を取得し、1970年に世界初の市販携帯型プリンター電卓「ポケトロニク」を発売しました。

その後、コンピューター端末のプリンターとして、テキサス・インスツルメンツ社の「SILENT 700」が1971年に登場しました。これは静音性を重視した設計で、インパクト方式のプリンターに比べて大幅な静音化を実現しました。しかし、大型コンピューター用途では高速なレーザープリンターに取って代わられ、ポータブル端末用として一定の需要を維持するにとどまりました。

1970年代後半から1980年代にかけては、家庭用パソコンの普及とファクシミリ（FAX）の拡大により、ダイレクトサーマルプリンターの需要が大きく増加しました。静音性と低価格が家庭用用途に合致し、家庭用パソコンやFAXのプリンターとして広く普及しました。特に日本のFAXにおいては、感熱記録方式は一時的に主流となりましたが、保存性の低さから普通紙を使用する方式に置き換わっていきました。

家庭用プリンター市場における復活

家庭用プリンター市場では、1980年代中頃から熱転写方式、1990年代からはインクジェットプリンターに取って代わられ、一時的に衰退しました。しかし、2000年代以降、高品質な感熱紙や新たな技術の開発により、家庭用フォトプリンターやモバイルプリンターとして再び注目を集めています。キヤノンのiNSPiCシリーズは、スマホ対応のシール印刷機として人気を博し、市場シェアを大きく獲得しました。

業務用市場

業務用市場においては、レジ、自動券売機、POSシステムなど、ランニングコスト重視の用途で継続的に利用されています。バーコードラベルプリンターなど、特定用途への組み込み用途でも需要が高いです。セイコーインスツルは、組み込み向け感熱式プリンターの世界最大手メーカーとして知られています。

派生技術：フルカラー印刷への挑戦

モノクロ印刷が中心であったダイレクトサーマル方式ですが、フルカラー印刷を実現する技術も開発されてきました。富士フイルムのサーモオートクローム方式や、ZINK Imaging社のZINK Zero Ink方式などがその代表的な例です。これらの技術は、家庭用フォトプリンター市場において、新たな選択肢を提供しています。しかし、高画質を誇る昇華型熱転写方式との競争が激しく、市場でのシェア獲得には課題も残っています。

まとめ

直接感熱記録方式プリンターは、そのシンプルさと低コスト性から、様々な分野で活用されています。家庭用市場では、モバイルフォトプリンターやシールプリンターとして新たな地位を築きつつあり、業務用市場では、依然として重要な役割を担っています。今後も技術革新によって、さらなる高画質化、高機能化が期待されます。

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