省符

省符の概要

省符（しょうふ）とは、日本の律令制のもとで発行される命令文書であり、省という組織がその権限に基づいて発給します。この文書は、国の施策や命令を明確にするための重要な手段です。

作成プロセス

省符は、省の長官である卿が直接命令を発することなく、次官である輔（大輔や少輔）および省の四等官に命令内容を承認させて作成されます。この過程において、卿が自分の命令を自ら受けるという矛盾を避けるため、卿自身は省符の作成には関与しません。したがって、次官と主典級の録（大録または少録）が省符に署名する形式が採用されています。これにより、命令の正当性が確保されるのです。

日本には8つの省庁があり、それぞれが特定の必要に応じた省符を発行していました。しかし、現存する省符は限られており、主に民部省と治部省のもののみです。民部省の省符は、荘園の認定に関連していることが特徴であり、治部省のものは特に僧侶の人事にかかわる命令が含まれています。

太政官符との違い

省符とは異なる文書として、太政官符があります。太政官符は、命令の発信者として次官級の大納言や中納言などが上卿となる場合があります。この場合、命令内容を承って官符を作成し署名するのは判官級の弁官と主典級の史が担います。よって、省符とは異なる書式が必要とされ、命令の発信や執行においても異なる手続きが存在します。

しかし、太政官からの決定を省に伝えるための太政官符が発給される場合、上卿が兼務している公卿（大納言、中納言など）がその省の卿を兼ねることがあります。このため、太政官符と省符が同一人物からの命令として発行されることもあるのです。

文書の執行とその変遷

省符の発給後の執行に関しては、正式な命令文書は実際にその命令を執行する官司に送られ、保管される仕組みになっています。命令の対象となる当事者にはその案文（写し）が配布されていました。しかし、11世紀後期以降、この慣行には変化が見られ、正式な命令文書が直接当事者に手渡される方式に移行しました。これにより、当事者側が自ら官司に対して命令の執行を行うための交流（交渉）が可能となりました。

たとえば、荘園に関する命令の場合、以前は荘園が所在する国府に正式文書が置かれ、関連する荘園領主などには案文が手渡される仕組みでしたが、後には正式な省符の正文が直接当事者に配布されるようになりました。これにより、関係者が自ら国府に対して命令の執行についての交渉を行うことができるようになったのです。

参考文献

• - 渡辺滋『日本古代文書研究』思文閣出版、2014年 ISBN 978-4-7842-1715-1 第二章「省符」

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