眩惑のスーパー・ライヴ

ジェネシス『眩惑のスーパー・ライヴ』（Seconds Out）

『眩惑のスーパー・ライヴ』は、イギリスを代表するプログレッシブ・ロック・バンド、ジェネシスが1977年にリリースした通算2作目の公式ライブ・アルバムです。2枚組LPとしてカリスマ・レコードから発表され、主に1977年の「静寂の嵐」ツアーにおけるパリ公演の音源を収録していますが、一部には1976年の「トリック・オブ・ザ・テイル」ツアー時の音源も含まれています。

レコーディングと背景

本作に収録された音源の大部分は、1977年6月11日から14日にかけてパリのPalais des Sportsで行われたライブパフォーマンスを録音したものです。これらの公演の一部は、当時フランスのラジオ局RTLによって放送されました。一方、収録曲の一つである「ザ・シネマ・ショウ」に関しては、例外的に1976年の「トリック・オブ・ザ・テイル」ツアー中の音源が用いられています。この音源は、同年6月23日に同じくパリのPavillion de Parisでの公演で録音されたもので、この時期のツアーではサポート・ドラマーとしてビル・ブルーフォードが参加しており、「ザ・シネマ・ショウ」でも彼の演奏を聴くことができます。また、「アイ・ノウ・ホワット・アイ・ライク」の中には、1953年に発表された楽曲「I Love Paris」の一部が効果的に挿入されています。

このアルバムは、当時のメンバーであるヴォーカル兼ドラマーのフィル・コリンズ、キーボーディストのトニー・バンクス、ベーシストのマイク・ラザフォード、ギタリストのスティーヴ・ハケット、そしてツアー・サポート・ドラマーのチェスター・トンプソンという5人体制で行われた約7ヶ月間に及ぶ「静寂の嵐」ツアーが1977年7月に終了した後、そのツアー中に録音された膨大な素材の中から最適なテイクを選び出して制作されました。

スティーヴ・ハケットの脱退

『眩惑のスーパー・ライヴ』は、ギタリストのスティーヴ・ハケットがジェネシスのメンバーとして参加した最後の作品となりました。彼の脱退は、本作のリリースが1977年10月8日に正式発表されるのと同時に明らかにされました。しかし、彼自身がグループを離れる決断を下したのは、それよりも約2ヶ月前、ちょうどこのライブ・アルバムの選曲やミキシング作業が行われている最中のことだったと言われています。フィル・コリンズは、当時のエピソードとして、スタジオに向かう途中でハケットが運転する車を見かけ、乗せてくれるよう頼んだが断られたという出来事を回想しています。その後、トニー・バンクスとマイク・ラザフォードからハケットの脱退を知らされたとのことです。ハケット自身は後年、もしあの時コリンズを車に乗せていたら、彼はきっと自分を引き止めるよう説得していただろうと語っています。

リリースと評価

本作は1977年10月14日にリリースされました。カリスマ・レコーズは、そのリリースに合わせて、新聞の見開き広告、店頭のウィンドウディスプレイ、カラーポスター、全国規模のラジオCMなど、大規模なプロモーションを展開しました。アメリカでは、アトランティック・レコーズを通じて発売されています。

リリース当時の批評家からの評価は概ね高く、『サウンズ』誌や『メロディ・メイカー』誌など、多くの音楽メディアで高い評価を獲得しました。『ローリング・ストーン』誌は、本作を当時のジェネシスの姿をよく捉えた作品であると評価し、初期のピーター・ガブリエル在籍時と比較して「芝居がかった演出は弱まっている」一方で、「わずかにジャズ・ロックの影響が加わっている」と指摘しました。

後年のオールミュージックによる回顧的な評価では、『トリック・オブ・ザ・テイル』や『静寂の嵐』といったフィル・コリンズがヴォーカルとなってからのアルバム収録曲について、スタジオ音源を凌駕するライブパフォーマンスであると絶賛しています。特にコリンズのヴォーカルは「全体を通して素晴らしい」とし、サポート・ドラマーのチェスター・トンプソンによるドラミングも、「コリンズの最高のプレイに少なくとも匹敵する」と高く評価しました。ただし、ガブリエル時代の初期楽曲については、ライブでの質が低下していると指摘し、コリンズのヴォーカルはガブリエルが持っていた「歌唱表現や繊細さには及ばないものの、近づいてきている」と述べています。また、フー・ファイターズのドラマーであったテイラー・ホーキンスは、本作を自身の「ドラマーとしての聖書の1つ」であり、「好きなドラム作品の1つ」として挙げています。

リイシュー

『眩惑のスーパー・ライヴ』は、何度かリイシューが行われています。1994年にはデジタル・リマスター版が欧州ではヴァージン・レコーズから、アメリカではアトランティック・レコーズからCD形式でリリースされました。さらに2009年9月には、ニック・デイヴィスによる新たなステレオ・ミックスおよび5.1サラウンド・オーディオ・ミックスが施され、「ジェネシス・ライヴ1973-2007」ボックスセットに収録されました。この2009年版では、オリジナルのLP盤で「ダンス・オン・ア・ヴォルケーノ」と「ロス・エンドス」が誤って1トラックとして扱われていた点が修正されています。2012年11月には、この2009年のリマスター音源を基にした35周年記念のLP盤もリリースされました。

本作は、ジェネシスのライブバンドとしての実力、特にコリンズ期における円熟したパフォーマンスを記録した重要な作品であり、バンドの歴史における一つの転換点を示すドキュメントとしても価値を持っています。

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