着床

着床：生命の始まりを支える神秘的な現象

着床とは、受精卵が子宮内膜に定着し、母体と胎児をつなぐ胎盤を形成する過程です。この着床が完了することで、妊娠が成立します。

多くの動物では、受精卵は子宮に到達するとすぐに着床しますが、イタチやクマ、アザラシ、カンガルー、ラットなどの一部の動物では、着床が遅れる場合があります。これは着床遅延と呼ばれ、環境条件が整うまで子宮内で受精卵が浮遊状態を保つ現象です。

ヒトの着床：複雑な細胞間の相互作用

ヒトの場合、卵管で受精した受精卵は、約7日間かけて子宮へと移動します。この間、受精卵は透明帯という膜に覆われ、子宮以外の場所への着床を防いでいます。しかし、受精卵が成長して胚盤胞になると、透明帯が薄くなり、最終的に破れて子宮内膜に接触します。

胚盤胞は、胚結節、胚盤胞腔、栄養膜から構成されています。栄養膜細胞が子宮内膜に侵入することで着床が始まり、この際の子宮内膜と胚盤胞の位置関係は、後の胎盤形成に大きな影響を与えます。しかし、そのメカニズムは未だ完全には解明されていません。

栄養膜細胞は融合して合胞体（合胞体性栄養膜）を形成し、母体の免疫反応を回避しながら、母体から栄養分を受け取ります。合胞体には多くの隙間があり、そこから母体の血液が流れ込み、胎児への栄養供給路となります。また、合胞体からはヒト絨毛性ゴナドトロピン（hCG）というホルモンが分泌され、母体の黄体を維持し、妊娠を継続させます。妊娠検査薬は、このhCGを検出することで妊娠の成立を判定しています。ヒトでは、安定した着床に約5日間かかると言われています。

一方、胚盤は内部細胞塊が肥厚して胚盤葉となり、二層構造を形成します。上層は羊膜腔となり、下層は卵黄嚢を形成します。胚はこの卵黄嚢と羊膜腔の間に位置して成長していきます。

合胞体の侵入によって、着床出血が起こることがあります。これは月経と時期が重なるため、妊娠に気づかない場合もありますが、通常は月経よりも出血量は少ないです。

着床形式：動物種による多様性

着床形式は、大きく分けて中心着床、偏心着床、壁内着床の3種類に分類されます。

中心着床: 胚の成長に伴い子宮腔が拡張し、胚子栄養膜が子宮内膜全体に接着します。(反芻類、馬、豚、猫、犬など)
偏心着床: 子宮腔の中心部から離れた場所に着床します。(齧歯類など)
壁内着床: 胚が子宮内膜上皮を貫通して内膜内部に侵入します。(ヒト、サル、モグラ、ハリネズミなど)

着床は、妊娠成立に不可欠なプロセスであり、そのメカニズムは複雑で、未だ解明されていない部分も多く残されています。今後の研究によって、より詳細な理解が進むことが期待されます。

参考文献

大地隆温ほか『最新家畜臨床繁殖学』朝倉書店、1998年。ISBN 4-254-46020-1。

関連項目

胚発生
受精
妊娠
* 胚盤胞

もう一度検索