植民政策学

植民政策学とは

植民政策学は、第二次世界大戦終結以前の欧米および日本において存在した学問分野であり、政策科学および社会科学の一分野に位置づけられます。この学問は、植民地統治を行う立場から、その下での諸政策を研究することを目的としていました。漢字では「殖民政策学」や「植(殖)民学」とも表記されます。

研究対象の広がり

植民政策学の研究対象は非常に広範であり、法学・政治学的な統治形式の比較検討から、移民、植民、開発にともなって生じる社会現象や自然現象まで、多岐にわたっていました。戦前の日本においては、多くの大学でこの分野を担当する講座が設置されていましたが、その研究範囲の広さから、法学部、経済学部、農学部など、さまざまな学部に講座が設置されていました。

日本における植民政策学の展開

近代日本における本格的な植民政策学は、日清戦争によって獲得した最初の海外植民地である台湾において始まりました。台湾総督府が、イギリス的な自治主義、またはフランス的な同化主義のどちらを統治形式として採用するかを検討したことが、その嚆矢とされています。教育機関では、1891年に札幌農学校が日本で最初の「植民学」講座を設置しました。この時点での講義内容は、政策科学というよりは農学的な「拓殖学」に近いものでした。

日露戦争前後から、他の大学や高等教育機関でも植民政策学の講座が設置されるようになり、制度的な整備が進みました。特に著名な講座としては、東京帝国大学経済学部に設置された「植民政策」講座が挙げられます。この講座では、初代主任教授に新渡戸稲造を迎え、その後、矢内原忠雄、東畑精一へと引き継がれました。

研究の中心課題の変遷

研究の発展とともに、植民政策学の中心課題も変化していきました。当初は、欧米諸国による統治形式の比較検討が主なテーマでしたが、大正末期以降は、社会現象としての植民地そのものの分析が中心となりました。学会としては、1910年に「殖民学会」が設立されましたが、1919年まで活動した後、長らく植民政策学の専門学会は存在しない状態が続きました。その後、第二次世界大戦中の1942年に「大日本拓殖学会」が発足しました。官庁所属の研究者としては東郷実、持地六三郎、民間の研究者としては竹越与三郎、細川嘉六などが著名です。

戦後の変遷

1945年の敗戦により、GHQの指令によって、各大学の「植民政策学」講座は廃止され、存続する場合も「国際経済学」などへの改称を余儀なくされました。現在、かつての植民政策学の伝統は、国際経済学、開発経済学、国際関係論研究、低開発地域研究などの分野に継承されています。

主要な植民政策学者

以下に、主要な植民政策学者とその主な著書を挙げます。

後藤新平: 『国家衛生原理』(1889年)、『衛生制度論』(1890年)、『日本植民政策一斑』(1914年)、『日本膨張論』(1916年)
持地六三郎: 『台湾殖民政策』(1912年)、『日本植民地経済論』(1926年)
東郷実: 『日本植民論』(1906年)、『植民政策と民族心理』(1925年)
竹越与三郎: 『支那論』(1894年)、『台湾統治志』(1905年)、『比較植民制度』(1906年)、『南国記』(1910年)
佐藤昌介: 北海道帝国大学
新渡戸稲造: 『新渡戸博士植民政策講義及論文集』(1943年、矢内原忠雄編)
上原轍三郎: 『北海道屯田兵制度』(1914年)、『植民地として觀たる南洋群島の研究』(1940年)その他
高岡熊雄: 『北海道農論』(1899年)、『樺太農業植民問題』(1935年)その他
山本美越乃: 『植民政策研究』(1920年)
河田嗣郎: 『植民地としてのブラジル』(1914年)
矢内原忠雄: 『植民及植民政策』(1926年)、『帝国主義下の台湾』(1929年)その他
東畑精一: 東京帝国大学
泉哲: 『植民地統治論』(1921年)
堀真琴: 法政大学
板垣与一: 東京商科大学
山本登: 『植民政策』(1942年)
小島栄次: 慶應義塾大学
加田哲二: 『現代の植民政策』(1939年)
金田近二: 『対伯移民政策の研究』(1940年)、『南洋及印度経済研究』(1942年)その他
永井柳太郎: 『社会問題と植民問題』(1912年)、『植民原論』(1921年)
細川嘉六: 『植民政策批判』(1927年)、『アジア民族政策論』(1940年)、『植民史』(1941年)

関連項目

植民地
殖民協会
南進論
南洋協会
台湾協会学校 - 拓殖大学
東洋アフリカ研究学院

参考文献

金子文夫 「日本における植民地研究の成立事情」 小島麗逸（編） 『日本帝国主義と東アジア』 アジア経済研究所、1979年
原覚天『現代アジア研究成立史論 : 満鉄調査部・東亜研究所・IPRの研究』勁草書房、1984年。
山本有造『日本植民地経済史研究』名古屋大学出版会、1992年。ISBN 4-8158-0174-6。
* 酒井哲哉 『近代日本の国際秩序論』 岩波書店、2007年　ISBN 9784000225601

外部リンク

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