矢野暢

矢野暢（やの とおる）

プロフィール

矢野暢は、1936年4月17日に生まれ、1999年12月14日に亡くなった日本の政治学者です。専門は東南アジア地域研究で、特に冷戦下の東南アジア政治に焦点を当てた研究で知られています。1986年には著書『冷戦と東南アジア』で吉野作造賞を受賞しました。

アジア地域研究者として初めてスウェーデン王立科学アカデミーの会員に選出されるなど、国際的な評価も高く、ノーベル賞に関するテレビ番組にも出演するなど、マスコミへの露出も多い人物でした。また、アウンサンスーチーが京都大学に留学していた際の指導教員としても知られています。クラシック音楽への深い造詣も持ち、京都大学の先輩である指揮者の朝比奈隆との対談集も刊行されています。晩年はウィーンで過ごしました。

経歴

熊本県出身。出生後、満洲国大連に移り住み、その後、熊本県八代市で中学校・高等学校（現在の熊本県立八代中学校・高等学校）を卒業。1959年に京都大学法学部を卒業、1961年に同大学院修士課程を修了、1965年に同大学院博士課程を修了しました。1971年には法学博士（京都大学）の学位を取得しています。

1966年に大阪外国語大学の講師となり、1968年には広島大学の助教授に就任しました。1972年からは京都大学東南アジア研究センターの助教授、1978年には同センターの教授、1990年には同センターの所長を務めました。

1993年、女性秘書から「暴力を用いた性的関係の強要があった」として「キャンパス・セクハラ」で告発され、京都大学を辞職に追い込まれます。辞職後は京都市の東福寺に身を隠しますが、週刊誌報道などにより寺にも抗議が寄せられ、退去せざるを得なくなりました。その後、告発内容が虚偽であったとして損害賠償請求訴訟や辞職の取り消しを求める訴訟を3件起こしましたが、いずれも棄却されました。1999年、ウィーンの病院で客死、享年63歳。

人物

京都大学では、歴史の浅い東南アジア研究センターの教授でありながら、法学部で政治学系の科目を担当し、学内行政にも積極的に関わっていました。バブル期にはテレビ出演も多く「人気教授」として知られていましたが、その権威主義的な傾向から、学内での評価は必ずしも高くありませんでした。そのため、セクハラ問題が「矢野事件」として表面化すると、その知名度と権力志向が災いし、特に学内の女性教員からは厳しく糾弾されました。

矢野事件は「アカデミックハラスメント」「キャンパス・セクハラ」として日本で初めて大きく取り上げられ、結果的に矢野は大学から事実上追放され、研究者としての道も完全に閉ざされることになりました。

研究室の秘書たちには、毎朝以下の「五訓」を唱和させていたとされています。

1. 矢野先生は世界の宝、日本の柱です。誇りをもって日々の仕事に励みましょう。
2. 矢野先生が心安らかにご研究とお仕事に専念できるよう、私たちは自分の持てるすべてを捧げてお尽くしいたしましょう。
3. この研究室は日本じゅう、世界じゅうの注目の的、私たちはすきのない仕事を通じて、この研究室の名誉と権威を守りましょう。
4. 矢野先生のお仕事は、大学の皆様の心に支えられています。職場の人びとには礼儀正しく接しましょう。
5. それぞれ健康に留意し、身辺をきれいに保ち、勤務に支障がないよう心掛けましょう。

親族

お笑いコンビくりぃむしちゅーの有田哲平は外甥にあたり、セクハラ問題を「親戚にいる大学教授のオジサンを見習えと言われていたが、その人セクハラで訴えられた」というネタにしています。

著書

矢野暢は多数の著書を執筆しており、その研究テーマは東南アジアの政治、国際関係、日本の外交政策、文化論、音楽論など多岐にわたります。

主な単著には以下のようなものがあります。

『タイ・ビルマ現代政治史研究』
『日本の「南進」と東南アジア』
『「南進」の系譜』
『新洋行学のすすめ』
『国際人としての日本人』
『東南アジア政策 疑いから信頼へ』
『日本の南洋史観』
『東南アジア世界の論理』
『劇場国家日本 日本はシナリオをつくれるか』
『南北問題の政治学』
『東南アジア世界の構造』
『東南アジア世界の構図 政治的生態史観の立場から』
『20世紀の音楽 意味空間の政治学』
『冷戦と東南アジア』
『「酔い」の政治学 劇場国家はどこへ』
『国家感覚 政治的生態史観のすすめ』
『国際化の意味 いま「国家」を超えて』
『フローの文明・ストックの文明 21世紀の日本のシナリオ』
『日本の国際化を考える』
『ノーベル賞 二十世紀の普遍言語』
『国土計画と国際化』
『衆愚の時代 「神々は渇く」の政治学』
『天眼抄』
『20世紀音楽の構図 同時代性の論理』
『近代の超克 世紀末日本の「明日」を問う』
『「南進」の系譜・日本の南洋史観』（合本復刊）


また、編集、共著、共編著、解説、聞き手としての著作も多数あります。

関連書籍

小野和子『京大・矢野事件 キャンパス・セクハラ裁判の問うたもの』
甲野乙子『悔やむことも恥じることもなく 京大・矢野教授事件の告発』

関連項目

山田長政

脚注

[参考文献へのリンク]

外部リンク

矢野暢 - コトバンク
* 矢野 暢 - コトバンク

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