知床 (世界遺産)

知床

知床（しれとこ）は、北海道東部に位置する知床半島とその沿岸海域を含む地域で、2005年にユネスコの世界自然遺産に登録されました。この地域は、北半球における流氷の南限として知られ、その影響を受けた独特の生態系が形成されています。

概要

知床半島は、流氷によって運ばれる栄養豊富な海水が植物プランクトンの大増殖を促し、それを基盤とした多様な食物連鎖が展開されています。サケ、マスなどの魚類が海と川を行き来し、それを餌とするヒグマやシマフクロウなどの大型哺乳類や猛禽類が生息しています。また、海獣や海鳥も多く見られ、北方系と南方系の生物が混在するという特異な生物相を形成しています。

知床連山は火山活動によって形成され、急峻な山々、原生的な森林、切り立つ海岸断崖、多様な湿原や湖沼など、変化に富んだ景観が広がっています。これらの自然環境は、環境省や林野庁によって厳重に保護されており、原生的な自然が維持されています。また、過去に開拓が行われた地域では、自然を復元する取り組みも進められています。

世界遺産の登録対象は、知床半島とその沿岸海域であり、日本で初めて海洋を含む自然遺産として登録されました。遺産地域の面積は、陸域が約48,700ヘクタール、海域が約22,300ヘクタールです。

遺産地域

知床には、多くの河川、滝、湖沼、山、岬が存在します。

河川

岩尾別川、カムイワッカ川、ルシャ川、テッパンベツ川、アウンモイ川、ルサ川、ケンネベツ川、サシルイ川、羅臼川など

滝

フレペの滝、カムイワッカ湯の滝、カムイワッカの滝、カシュニの滝

湖沼

知床五湖、羅臼湖、知床沼

山

遠音別岳（1,330m）、知西別岳（1,317m）、天頂山（1,046m）、羅臼岳（1,661m）、サシルイ岳（1,564m）、知円別岳（1,544m）、知床硫黄山（1,562m）、知床岳（1,254m）

岬

プユニ岬、知床岬

登録基準

知床は、以下の世界遺産登録基準を満たして登録されました。

(ⅸ) 生態学的、生物学的に重要なプロセスを示す顕著な見本であること。

知床は、流氷の影響を強く受ける特異な生態系を持ち、海洋と陸上の生態系が密接に関わっている点が評価されました。

(ⅹ) 生物多様性の保全にとって重要な自然生息地を含むこと。

知床には、シマフクロウやシレトコスミレなどの希少種が生息し、サケ科魚類、海獣、海鳥にとって重要な地域であることが評価されました。

評価のポイント

知床の生態系は、流氷が運ぶ栄養分から始まる食物連鎖によって支えられています。この豊かな生態系は、アザラシなどの海獣、オオワシなどの鳥類、そしてサケなどの魚類を育み、それらが相互に依存しあうことで、生物多様性を維持しています。また、絶滅危惧種や希少な動植物が多数分布しており、ヒグマやエゾシカといった大型哺乳類も高密度で生息しています。

知床では、自然保護活動も積極的に行われており、「知床世界自然遺産地域科学委員会」が中心となり、自然環境の保全と人の利用の両立を目指した管理計画が策定されています。

沿革

知床の歴史は、19世紀後半の開拓調査から始まり、20世紀には開拓や国立公園の指定、そして世界遺産登録へと進展しました。以下に主な出来事を記載します。

1874年：鉱物資源調査
1914年：開拓者入植
1949年：再入植
1964年：知床国立公園指定
1977年：「しれとこ100平方メートル運動」開始
1980年：知床峠開通
1982年：知床鳥獣保護区指定
1990年：知床森林生態系保護地域指定
2005年：世界自然遺産登録
2016年：北海道知床世界自然遺産条例制定

世界遺産委員会の評価

世界遺産委員会は、知床の保全状況を定期的に評価しており、日本に対して勧告を行っています。2008年の評価では、遺産地域の海域拡張、海域管理計画の策定、サケ科魚類への影響対策、エゾシカの適正管理、利用の適正化、調査研究・モニタリングの実施などが評価され、良好な進捗が認められました。しかし、その後の委員会では、さらなる保全措置が求められており、より詳細な計画策定と実施が求められています。

知床世界自然遺産と北方四島

知床と北方四島は、環境や生態系に類似性があることが指摘されています。将来的には、関係国が協力して「世界遺産平和公園」として発展させる可能性も示唆されています。

拠点施設

知床には、以下の拠点施設があります。

斜里町

知床世界遺産センター
知床森林生態系保全センター
知床ボランティア活動施設
知床自然センター

羅臼町

知床世界自然遺産・知床国立公園羅臼ビジターセンター
知床世界遺産ルサフィールドハウス

アクセス

知床へのアクセスは、ウトロまたは羅臼を経由します。ウトロと羅臼は、知床峠を通る道路で結ばれていますが、冬期は通行止めとなるため、根北峠経由でのアクセスとなります。

斜里（ウトロ）へのアクセス

車：女満別空港から約2時間15分
バス：知床斜里駅から約60分

羅臼へのアクセス

車：中標津空港から約1時間10分
バス：釧路から約3時間30分

まとめ

知床は、流氷が育む豊かな生態系、多様な動植物、そして火山活動によって形成された景観が一体となった、世界でも稀な自然遺産です。その価値を守り、次世代に継承していくために、今後も継続的な保護活動が求められています。

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