石野信一

石野信一：大蔵官僚から銀行家へ、激動の時代を駆け抜けた男

石野信一（いしの しんいち）は、1912年3月13日に生まれ、1996年1月19日に83歳で没した、日本の大蔵官僚、そして実業家です。彼は、第8代大蔵事務次官、さくら銀行相談役名誉会長といった要職を歴任し、その生涯を通して日本の経済界に大きな足跡を残しました。

大蔵省でのキャリア

石野は、神戸三中、大阪高校を経て、1935年に東京帝国大学法学部政治学科を卒業後、大蔵省に入省しました。主計局への配属を皮切りに、理財局総務課長、大臣官房調査部長、理財局次長とキャリアを重ね、1957年には官房長に就任。当時、森永貞一郎とのコンビは「森 - 石ライン」と呼ばれました。その後、銀行局長、主計局長を経て、1963年には大蔵事務次官に就任。池田勇人首相の高度経済成長政策を支えるブレーンとして活躍しました。

彼は熟慮断行型として知られ、1954年度の予算編成では、緊縮予算を主張し、それを貫き通したという逸話が残っています。この時、事務次官として予算編成を共にしたのが河野一之であり、この時の関係が、後の1970年代前半の金融再編の伏線となりました。

神戸銀行での再建劇

1965年、石野は大蔵事務次官を退官しました。周囲は彼が日本銀行総裁への道を歩むだろうと予想していましたが、1967年、山陽特殊製鋼倒産事件で揺れていた神戸銀行の頭取に就任するという、予想外の転身を遂げます。神戸出身であったこと、当時のオーナー頭取・岡崎忠からの強い要請があったことが、その理由でした。夫人が岸田幸雄・元兵庫県知事の娘と従姉妹同士であったことも、この決断を後押ししたと言われています。

石野は、神戸銀行の再建に尽力し、1973年には、大蔵省の5年先輩である河野一之が頭取を務める太陽銀行との合併を決断。合併後の太陽[[神戸銀行]]の初代頭取に就任しました。この合併は、前年1972年のワシントンD.C.でのIMF総会で、両頭取がホテルの部屋で話し合いを重ねた末に実現したとされています。その後、石野は、1978年に会長、1983年に取締役相談役、1990年にはさくら銀行相談役名誉会長を務めました。

その卓越した手腕から、1979年には日本銀行総裁候補にも名前が挙がりました。

地元神戸への貢献

1982年から1991年まで、石野は神戸商工会議所会頭を務めました。また、日本商工会議所副会頭も兼任し、地元神戸の官財界を取りまとめました。神戸三中の同期生である宮崎辰雄・神戸市長、後輩の中内㓛・ダイエー社長、鬼塚喜八郎・アシックス会長らと連携し、神戸市の発展に貢献。人工島埋め立ての建設資金を捻出するための外債発行を、元大蔵事務次官として後押ししました。また、1989年の神戸市長選挙では、助役同士の争いを調停するなど、政治的な手腕も発揮しました。

しかし、この市長選挙や1991年の神商会頭選挙での調整は、政財界に大きな軋轢を生み、その後、石野は一線から退くこととなりました。

その他の活動と晩年

1984年、石野は勲一等瑞宝章を受章。1996年1月19日に83歳でその生涯を閉じました。文芸評論家の村上一郎は、彼の従弟にあたります。

石野信一は、大蔵官僚、銀行家、そして地域経済のリーダーとして、激動の時代を駆け抜けました。彼の功績は、日本の経済史に深く刻まれています。

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